どんなに悲しくても辛くても、涙はやがて止まる。膝に押しつけていた顔を上げ、きっと涙で汚いであろう顔をごしごしと腕で拭きぼーっと空を眺めた。こんなにもぐしゃぐしゃな気持ちとは反対に、見上げた空は清々しい程真っ青に広がっていた。



「むー」

「…ナミさん」

「行くわよ、皆のところに」



キリッとした表情のナミさんが、真っ直ぐに私を見つめてそう言った。だけど私の中に生まれた躊躇いは消えない。行ったって私には何も出来ない。怖い。そう、怖いんだ。
ナミさんから目を背ける。下に向けられた視線に映るのはナミさんの細い足と、ウソップに借りたズボンとサンダルだった。



「もう泣くだけ泣いた。弱いところもいっぱい見せた。だから、行こう、みんな戦ってる」

「……私、は…」

「一人じゃないの、もう、私もむーも、一人なんかじゃない。みんながいる。…みんなしか、いないの。だから、」



行こう、と掴まれた私の左手。ナミさんの手はすごく温かかった。泣きそうだったのは私だけじゃなくて、力強くて優しいその表情に私はまた、目頭が熱くなるのを感じる。
走るナミさんに手を捕まれたまま、遅れないように真っすぐ走る。ナミさんの言葉が頭を、胸をぐるぐる駆け巡っている。
流れていく周りの景色も目には入らない。



「むー…覚悟は、出来てる?」

「………怖い、で、す」

「私もそうよ。だけどここを守らなきゃ、私たちの居場所は永遠にないわ」



走って走ってたどり着いた建物は、外から見てももうすでにボロボロになっていた。中がどうなっているかは知らないけれど、中で何があったかなら大体想像がつく。怖くなってナミさんの手を握る力が強くなったのが自分でも分かった。だけど同時に、ナミさんが私の手を握る力も強くなった。



「一人じゃない。怖いけど、負けない。彼らは強い。……信じよう、みんなを」



最後に見せてくれたのは強い微笑み。いいのかなって、信じてもいいのかなって、グラグラ揺れる私の気持ち。
ここがどこかも分からないし、危険な事ばっかりで、帰りたい気持ちでいっぱいだ。だけど帰れるのか帰れないのか、これからどうなるのかなんてわかるはずもなく、私に待っているのは真っ暗な未来ばかりなような気さえしている。
争いばかりのこんな危険なところで私一人にされてしまったのならば、私は真っ先に死んでしまっているに違いない。事実、一人で途方に暮れていた私を拾ってくれたのは、彼らなのだ。おかげで怖い目にもいっぱいあっているけれど、彼らは私を守ってくれた。そしてこうやって、こんな私を受け入れてくれている。私の手を、握ってくれている。



「……何も、出来ないけど…………私、でも、いいのかな…」



守るものは何もない。どうせ、家族も友達もここにはいない。たった1人で飢え死にするなら、1人で孤独に死ぬのなら、みんなと一緒のほうがいい。



「私だって戦いなんて何も出来ない。でもやるしか、ないの。行こう、戦おう……一緒に」



ぎゅうっと握られた手が、すごく心強く感じた。怖い。死にたくない。だけど、だから、見ているだけなんて嫌だと思った。
私に背を向け一歩一歩、前に進むナミさんの背中が凄く大きく見えた。
今まで緩く、平和で平凡な道しか知らなかった私にとってこの一歩が想像できないくらい大きなものだと感じる。ドキドキする鼓動と震える手を握りしめ、大きな、大きな一歩をこの頼りない足で踏み締めた。


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