事態は予想に反していた。負けることを予想していたわけじゃないけど、そう思っていなかったと言えば嘘になる。やっぱり馬鹿だ。私は正真正銘、どうしようもない馬鹿野郎なのだ。
試合は一方的なものになる。怒濤の展開というやつだろうか。解説や実況も追い付かないくらいの流れで進んでいく。開いた口が塞がらないとでもいうのだろう、皆がその流れるような試合展開を目で追うので精一杯だった。そして反対を向いている魚人の巨大な上の歯を掴んだまま、ゾロがゴールに向かっていく。



『ゴール!!ゴール!!!ゴ〜ル!!!』



状況を理解しようとしている私を余所に、会場は一気に盛り上がる。勝ったって、理解するのに少し時間がかかった。
ピーッと鳴るホイッスルの音。



『そして今試合終了のホイッスル!!!グロッキーリング決着〜!!!』


決着。終わった、試合が、終わった。



『デービーバックファイト二回戦!!無敵のチームグロッキーモンスターズをくだし!!ゲームを制したのはな〜んと!!麦わらチ〜ム!!!大勝利〜っ!!!!』



勝った、そう思うだけで胸が熱くなって色んなものが込み上げる。目頭が熱くなる。早く、早く呼んで――…そんな気持ちを込めて掌をギュッと握り締める。



「じゃあむー…」

「ちょっと待ってルフィ!!」



ルフィが私の名前を呼んだその時、ナミの声でそれは遮られる。涙は少しずつ引いていく。



「三回戦は一対一の決闘よね。出場選手はルフィとオヤビンだけ。じゃあ今オヤビンを取っちゃえば三回戦は不戦勝になって…もうこれ以上戦う事もなくむーを取り戻せるんじゃない?」



続いたナミの言葉はそんな内容だった。ルール上問題はないらしいが海賊としてどうなんだって、相手からはブーイングの嵐。見損なったぞ、なんてブーブーと文句は止まらない。



『さァさァしかし!!泣いても笑ってもこのゲームの行方の決定権は勝ち組の船長モンキー・D・ルフィにあるよ!さァ誰を選ぶのかな〜!?』



ドキドキ、緊張が大きくなる。もし、もしここでオヤビンを選んだなら、それでも私は仲間に戻れるだけど、でも――。
ナミたちは最後の話し合いをしている。確かに決着はつけられるけどオヤビンが仲間になる、とロビンが言うと皆が一斉にいらないと言う。



「むーー!!!帰って来い!!!」



むーを呼ばれて、引いていた涙が気持ちと一緒に溢れてくる。呼んでくれたルフィまで走り、飛び込む。細いけど筋肉質な彼の身体が私を受け止め、ギュッと抱き締めてくれる。



「泣くなゾロ達が敗けるわけねェだろ」



私の両肩をガッシリと掴んでいつもの陽気な笑顔と声のトーンでそう言う。私はそれに何度も頷く。次の試合に気合いを入れるルフィが私の肩から手を離すと、隣からやってきたサンジが私の頭に優くて大きな手を乗せた。何度目だろう、この大きな手が私の髪を撫でるのは。凄く安心する。どうしていいか分からない私は溢れ出る涙を何度も涙を拭う。



「あんな奴らに渡すわけねェだろ?」



何度も頷く。嬉しかった、安心した、いらないじゃなくて、よかった―――…。考えれば考えるほど涙は止まらない。正直言えば泣くほど悲しかったわけでも不安だったわけでもないんだけど、みんなの優しさが涙を引き出してくる。サンジが私を包み込むように大きく腕を広げる。



「…ってこらサンジ!!」

「退けよエロコック」

「んだとクソマリモ野郎!」



いつもの言い合いに涙を流しながら口元が綻んでいく。バサッとタオルを掛けてくれたのはきっとゾロで、わけもわからないまま流れている涙はしばらく止まらなかった。


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