正直ホッとしていた。やっぱり二人は強いんだ、と再認識するとどこか勇気が湧いてくる。最後のひとり、早く、早く――…そう期待をしたのも束の間。二人はまたケンカを始めてしまったと実況が入った。その隙に巨人が走り出す。二人ならなんとかしてくれる、そう思ったがどうも様子がおかしい。二人は巨人に攻撃を仕掛けるどころかひたすら逃げ回っている。ぎゅっと手を握りしめ、何とか様子を確かめようと目を凝らして見ると“何か”が太陽光に反射してギラギラ輝きを見せている。



『出てしまった警告のイエローカード!!コックのサンジもう一枚でもれなく「赤」退場になるよ!!』



イマイチ状況が掴めないまま不安になっているとき、そんなアナウンスが流れて一瞬だけ思考が止まった。ゾロは相変わらず逃げ惑っているが、観客に近づいているサンジにイエローカードが出されたらしい。理由もすぐに分かった――審判を蹴り飛ばした、んだと。だけど同時に理由も分かった。魚巨人は斧を振り回していたのだ、武器が反則だと最初に告げられたはずのルールを無視して。



「あっ…あれルール違反なんじゃ…!」

「ルール違反?何の事かしら?」

「武器はダメだって最初に言ってたし、それにっ…」

「審判が気付いてないなら仕方ないわ。偶然、見えてないんじゃない?」



クスッと笑った、それに腹が立った。偶然見えてないなんてそんなの有り得ない。あれは誰がどう見たってルール違反で、だけど何故だが誰も何も言わないまま試合は進んでいく。
サンジとゾロは押されていた。こんな、相手ばっかりが贔屓されてるような試合で勝てるわけない、有利になれるわけがない。爪が食い込むくらい手のひらを握りしめ、痛いくらい唇を噛み締める。ルール違反を黙認されてやりたい放題の敵三人に、サンジとゾロはみるみるうちに傷だらけにされていき―――フィールドに倒れ込んだ。



『グロッキーモンスターズ目を見張る連続攻撃!!!これはもう立ち上がれないねー!!麦わらチーム』



もう勝ったと言わんばかりの盛り上がりに、込み上げてくる気持ちを必死に堪えた。フォクシー海賊団になることは勿論、砂ぼこりで見えなくなる程やられっぱなしの二人のことを考えると尚更気持ちは荒れていく。
もうどうすればいいの私これからどうしようあんな人のお嫁さんなんて、とそんな思考が頭を巡り始めた。浮かぶ涙は落ちないように、悔しいから絶対泣かないってぎゅっと堪える。だけどもう勝敗は決まったも同然だとそんな空気に流されそうになって上を向いた。



『やっっぱり怪物たちには敵わないっ!!むしろ私実況のイトミミズ!!!称賛の拍手をもってこの勝負を見届け…』



ゆっくり目を瞑り、泣きそうになりながら感情を押さえ込む。すると賑やかだった会場は何故か一瞬静まり返り、今度はまた先程を越えるような歓声が沸き上がった。閉じていた目を開けて前を向き、会場の方に視線を向ける。そして驚きの感情で虚ろになっていた目はぐっと見開かれる。



『立った!!!立ち上がったよ麦わらチーム〜!!!恐ろしく頑丈な二人、剣士ロロノア!!コックのサンジ!!!』



実況の通り、二人は立ち上がっていた。心臓が跳ねる気持ちを呑み込み、しっかりと敵を見据えている彼らを見てさっきとは違う理由の涙が込み上げてくる。堪えるようにキュッと唇を噛み締めていると、今度は目を疑うような光景に眉間に皺を寄せた。



『なんと…!オヤビン!!「モンスターバーガー」を注文してしまったよ〜!!!麦わらチーム絶体絶命〜!!!』



あからさまなそれに、会場は一層盛り上がりを見せる。納得していいわけがない。どうしてあんなにも普通に武器を手にしているのだ彼らは。どうしてそれが許されるんだ、“ルール”は、一体どこへ行ったんだ――――。



「出たよー!!最強最悪の3連凶器攻撃!!!逃れる統べなし!!!これはレッドカード級の反則だね〜っ!!!」



実況だってハッキリと“凶器”や“反則”だと口にしているのに。審判は“偶然にもブリッジの最中で後ろを向いている”らしく気付かないフリ。こんなの勝てるわけない。こんなの卑怯だ、ズルい、最悪、最低。罵る言葉ならいくらでも出てくるのに、どうにもならないこの感情。悔しい気持ちでいっぱいになる。許せない、なのに何もできない。
悔しさに掌をぎゅうっと握り締める。そして浮かんでくる負の感情。



『もうどーなっても知ーらないっ!!』



本当はみんな私の事なんか…―――――いらないんじゃないの――――――…なんて。今さらそんな気持ちになるなんて馬鹿だ、私…馬鹿だ。そんな感情を振り払うように首を横に振り、無理矢理に意識を試合に集中させるのだった。


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