「んな顔してねェでさー、むーも食えよーなー!」
ルフィにそう言われて私も結局いなり寿司を食べている。彼の雰囲気に流される自分もどうかと思ったけど、人を流してしまう雰囲気を持っているのだ彼は。だけどさっきたらふくサンドウィッチを食べたもんだから一つ二つで、もうお腹はいっぱい。
『さァデービーバックファイト一回戦「ド〜ナツレース」!!!今まさに、決着の時を迎えようとしているよ!!』
そんな放送にみんなは屋台をほっぽりだしてゴール付近に集まり出し、私たちも例外なく急いでそこに向かう。どうやら勝っているのはナミたちのようだ。このペースだともう勝ちには違いない。
「ナミ達が勝ってるぞ!!!やったー!!!」
「んナミさ〜ん!ロビンちゃ〜ん!スピーディな君達も素敵だ〜!!」
サンジもルフィもチョッパーも浮かれてる。だけど一緒に盛り上がる相手の海賊達に少しの疑問も生まれた。相手の勝利を喜んでどうするのだろう。素直に勝負を楽しんでいるのだろうか、なんて。
「おしかったなお前達」
「何で!?勝ってるだろ!!」
「ギャハハハ今はな…見ろ!オヤビンが来た!!」
「オヤビンもお前と同じく…“悪魔の実”の能力者なんだ」
「“ノロノロビーム”!!!」
ゴール直前にいたナミ達の船に並走していたフォクシーがそれを放ち、そこからはあっという間に勝負が決まった。
『勝者!!!キューティワゴン号!!!デービーバックファイト一回戦「ドーナツレース」を制したのは!!!我らがアイドルポルシェちゃ〜ん!!!』
私たちが、負けた。一瞬の事でよく分からなかったけど、ナミ達の船はゴール直前で抜かされてしまったのだ。
取り敢えず海の上で疲れ切っているナミ達を引き上げて話を聞く。どうやら本人たちも何が起きたのかしっかり把握できていないらしい。勝ったと思った瞬間ビームに当たって体の自由が奪われた、自分たちの周りだけ動きが遅くなった、と。
「フェ〜ッフェッフェッ…何も不思議がる事ァねェよ、その原因は“ノロマ光子”!!!」
「“ノロマ光子”だと…?」
ノロマ光子と呼ばれたそれ。名前でなんとなく分かるような気もしなくもないが、フォクシーは自慢げに説明を始める。キツネの形に変えられた指の先がボワンと光る。
「この世に存在するまだまだ未知の粒子だ!!この光を受けたものは生物でも液体でも気体でも………!!他の全てのエネルギーを残したまま物理的に一定の“速度”を失う!!!」
「わからん!!!バカかお前!!!」
「でも…そんなバカな事が…」
「あり得ない!?わかっている筈だこの海で…そんな幼い言葉は通じねェ!!「触れたものみなノロくなる」!!!それが“ノロマ光子”!!!」
彼の言うことは最もだった。あり得ない事などない。私の元いた世界ではあり得なくてもここではそうじゃない。どんなに理不尽でも、どんなに非合理的でもどんなに非科学的でもそんなの関係ない。こっちにきてそんなに経っていない頃に私が真っ先に学んだ事だったと思う。
百聞は一見にしかず、と言うことだろう。フォクシーは味方が打った砲弾にノロノロビームを浴びせた、その瞬間から砲弾の動きは文字通りノロノロの動きを遅くした。その速さで浮いていることが不思議で仕方ない。効果は30秒で切れて元の速さに戻る。自信満々なまま吹っ飛ばされたフォクシーが残念で仕方なかったが、この能力は確かにこのゲームには有利に違いないだろう。
「とにかくお前達!!わかったでしょ!?お前達は敗けたのよ!!!」
「第一回戦「ドーナツレース」!!!おれ達の勝ちだ!!!」
盛大に盛り上がる会場。次に待っているのは彼らにとっての戦利品を指名すること。ドラムロールが鳴り、真ん中で可笑しそうに笑いながら見定めるフォクシー。きっともう決まっているのだろうけど、変な緊張感が漂っている。
「まずは一人目…おれが欲しいのは………!!!」
彼の指先が指すのは、我らが船医・チョッパー。みんなが息を飲んだ瞬間フォクシーの口元はニヤリと歪み、
「お前だ……!!!」
次の瞬間、チョッパーに向いていたはずの指先が示していたのは、私だった。
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