只今、勢いよく落下中。
「あああああああああ!!!!」
空島から落ちてしばらくの間はタコバルーンでゆっくりふわふわと降りていた。だけど突然、何がキッカケかは分からないけどメリー号を包み込むほど大きかったタコは一瞬にして消えたのだ。正確には消えたんじゃなくて普通のタコサイズに縮んだんだけど。
まだよかったのは船が方向を変えずに落ちてくれたこと。みんなが散らないように必死に船にしがみついている。
「ぐあーっ!!」
「痛てててて!!!」
「冷てェ〜っ!!」
――ドッパァー…ン、と凄まじい水飛沫を立てながら船が海に叩きつけられ、その衝撃に立っていられず座り込む。舞い上がった飛沫はまるで大雨が降るかのように降り注ぎ、船に乗っていた私たちはそれをモロに浴びて水浸しになった。
「むーちゃんも無事か?」
サンジがナミやロビンを心配し、私にも声をかけてくれて小さく頷いた。びしょびしょになって張り付いた服や髪が気持ち悪い。バクバクする心臓を落ち着かせるように一度大きく息を吸い、張り付いた髪を退かしてゆっくりと立ち上がった。
「海が…青い…」
目に入る海は見慣れたはずの、だけど少し懐かしくも感じる綺麗な“青色”をしていた。だから空で見た海の白さを思い出すと、ついさっきまでの自分達がどれだけ不思議で夢のような冒険をしてきたのかが良くわかる。
見慣れた海を眺めているはずなのに不思議な気分になった。本当に夢だったんじゃないかと一瞬錯覚しそうになったけど、右腕に染みる赤色がそれを否定した。皆がそれぞれの感想を持っている。だけど楽しかったと、キラキラした瞳がそう語っているようにも見えた。
「野郎共〜!!!帆をはれ〜!!!行くぞ次の島〜!!!」
「おいちょっと待てよルフィ少しは休ませろ!!」
「甘い甘いっ!!そんな事言ってられる海なら誰も苦労しないでしょ!?波が少し変なの」
ナミが、どこか嬉しそうに海を眺めてそう言う。私たちもナミの見ている方向に視線を向けると、そこには船を飲み込むのは容易いであろうサイズの大波がやってきていた。(シーモンキーなんていう生き物が波の中にいたんだって)
既にびしょびしょだった私たちの身体が更に水浸しになる。色んなところに身体をぶつけて、最終的に私のお腹に手を回して助けてくれたのはやっぱり、サンジだった。
「あんだけ揺られりゃ俺でもさすがに酔いそうだ…」
後ろから聞こえたそんな声とため息に、私は小さく苦笑いを浮かべた。
私も小さく息を吐いて、サンジの腕の力が緩むのを待ったけどなかなかそうならない。どうしたんだろうと後ろを振り向こうとすると、私を抱えた方とは反対の腕がそっと伸びてきてその手が私の頬に触れる。…な、何があったんだろうどうしたんだろう、って思いながら心臓がバクバク動きを強めていく。彼の中指が私の頬をスッと撫で、もうわけがわかんなくて普通に恥ずかしい。平静を装ってどうしたのと尋ねれば、短い一言が返ってきた。
「髪の毛。……ドキドキした?」
最後の言葉にヤラレタと思った。サンジってこんなキャラだっけ?なんて思いながら不覚にもドキドキしたのは紛れもない事実。唇を噛み締めて強がって首を横に振る。
「なんだ、残念」
後ろでそっと、彼が笑った。
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