大蛇の中から出てきたみんなは、大きな袋に大量の宝物を持ち出してきていた。袋に入り切らないくらいの“金銀財宝”が溢れている。手に入れるものは手に入れたから、あとは何処かへ行ったロビンが帰ってくるのを待つだけ。…なんだけど、なかなか帰ってこない。
「かったりィな。あんな女待つ事ねェだろ」
投げやりにそう言ったのはゾロだった。勿論、それを聞いたサンジやルフィ達が猛抗議。殴り合いの喧嘩が勃発して、血まで流れているその光景に呆れるというかなんというか。止めたほうがいいのかなって、ちょっと迷ったけどそれはしなかった。
遠くからロビンが歩いてきたからだ。
「お〜い!!ロビ〜ン!!急げ急げ!!逃げるぞ黄金奪ってきた!!」
「アホ!!言うな!!後ろ見ろよみんな一緒に帰ってきてる!!」
「コリャ一気に帰ってきたな」
「ヤベー巨大大砲だ!!!」
ロビンが帰ってきた、その後ろには何百人っていうスカイピアの住人たちがいる。そして何十人っていう人が、何か大きな物を運んで来た。白い布に包まれたソレは、ウソップ曰く“巨大大砲”。あんな巨大な大砲で打ち込まれたなら、木っ端微塵もいいとこだろう。
焦るみんなとは反対に、先頭を歩いているロビンは焦る様子もなく私たちに視線を向けた。私もナミに渡された財宝を両手に抱え、ロビンを待つ。
「船に乗れ!!もうここにはいられねェ!!ほら見ろ大量っ!!!金持ちになった!!!」
ロビンに見せるようにはしゃぎルフィは、他の人たちが居るにも関わらずそんな風に騒いでいた。だから早く来い、と。
そしたら当然、住人たちは騒ぎはじめる。そりゃ貴重なお宝が持っていかれるんだから大変な事態なんだろう。
「ほら見ろバレたぞ!!!」
「逃げろ〜!!!」
悪い事してるって分かってるんだけど、今このドキドキは罪悪感だけじゃなくて、きっとワクワクしてるそれもある。財宝を抱えて走る。ああなんだか今凄く海賊っぽい気がする!
「おーい!待て君達!!」
「待て待て待てと呼ぶがてめェら!!」
「おォ!!言ってやれウソップ!!」
「命を懸けて!!!はるばる来た空島の!!!世に伝説の“黄金郷”!!!誇り高き海賊様がっ!!!手ぶらでオチオチ帰れるかってんだァ!!」
「ロビンちゃ〜ん急げ捕まるぜ〜!!!」
追われているのに、危機感はほんのちょっとだけ。まるで歌舞伎のようなウソップのソレに振り返れば楽しくて笑えてきた。だけど逃げなきゃ走らなきゃって思って前に向き直ると、重い荷物のせいか足がもつれる。
「…っ、……」
「おォっと危ねェ」
「…あ…ありがとう」
「重くねェか?」
「…重い、けど平気」
財宝を抱えた反対の手で、私のお腹に手を回して支えてくれる。ニコッと笑うとサンジも同じように笑ってくれて、また一つ幸せな気持ちになる。
みんなは楽しそうに、そして何より自由にはしゃいでいる。逃げてるはずなのに楽しいなんて。
財宝を落とさないようにしっかりと抱き締める。そして走る、走る。船まではまだ少し遠いけど、
とにかく走って逃げる。
これで空島の旅は終わり。空の冒険が終わったんだと、それはほんの少し寂しい気持ちもある。だけど、夢はいつかは覚めるもの。もういっぱい泣いて、いっぱい笑った。痛いのも楽しいのも悲しいのも辛いのも、全部全部経験した。
もう十分。もう思い残す事はない。…って言ったら嘘になるかもしれないけど。
終わった。終わったんだ。
「逃げろ〜っ!!」
「待てェ〜!!」
目指すはメリー号。
空島の冒険は、もうすぐ終わる。
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