宴はいつの間にか終わり、私もいつの間にかぐっすり眠ってしまっていたらしい。
久しぶりに、夢を見たんだ。
相変わらず真っ暗な部屋にいた私。ルフィや、その後ろに居るみんなが私の腕を笑顔で引っ張ってくれている。反対側には、家族や友人がいた。走っても走っても、手を伸ばしてくれているのに掴めなくて、届かなくて。諦めようとしてた。下ろしかけていた手を、止めかけていた足を動かすように促し、背中を押してくれたのは私の手を掴んでくれているみんなだった。だから走った。走って走って、腕を伸ばして、消えかけていた家族の手を私は、確かにこの手に握り締めていた。

目が覚めると、気持ちは驚くほど穏やかだった。もう不安も恐怖もない。まだ暗い空を眺めていると、誰かそっと私の肩を叩いた。振り向くと、ルフィが笑いながら「しーっ!」と口に指を当てていた。そのまま私の腕を引き、無造作に地面に眠りこけているスカイピアの人たちを起こさないようにしてナミ達の元に向かった。起きたのはナミだけだったようだけど、とりあえずナミにその話を持ち出す。



「黄金を奪って逃げるぞ…」

「え!?黄金があるの!?」

「ばかっ!!!声がでかい!!!」

「あんたの方がでかいわよ!!!」

「うるせェな眠れやしねェ!!」

「でかいっていうお前の声がでけェだろ!!!」

「ナミさんおはよー!むーちゃんも!あれ!?朝じゃねーっ!!!」


小さい声で話していたはずがいつの間にかルフィとナミの喧嘩になり、寝ていたウソップ、チョッパー、ロビン、サンジも目を覚ました。それどころか寝ていたスカイピアの人たちも皆が起き上がりこっちを見ていた。
私たちがまさか黄金を奪おうと考えているとも知らず、余りの賑やかさに賑やかだなぁって呆れたような笑みを浮かべていた。そして彼らは再び睡眠態勢に入る。
皆が寝静まったのを確認して、私たちはサンジを中心に小さな円を作り、黄金を奪う計画を立てた。こういうの、なんだか凄く海賊らしい気がする。空は明るい。



「――じゃ、そういうわけだ。滅多に来れねェ空島だ!思い残す事のねェように!!」



まだ寝ているゾロを置いて、それぞれが目的の場所に向けてい動き出した。ルフィ、サンジ、ナミ、チョッパーは宴で疲れて寝ている大蛇の口から、飲み込まれているであろう宝を探しに向かった。一度飲み込まれたとき、その胃袋に飲み込まれているものを確認してるから知ってる。ロビンはふらっと歩いていったし、ウソップはスカイピアの人たちにダイアルを貰っているし、ゾロは特に興味がないのか刀を取り出して転がっている岩を真っ二つにしている。私もやることが無いから、とりあえず岩に座って皆が戻ってくるのを待機中。
ぼーっと空を眺めた。空に居るのに空を眺めるなんて可笑しな話かもしれないけど、それでも空は青いのだ。
ウソップと何やら言い合っていたらしいゾロが私の隣に腰掛け小さく溜め息を吐く。身体中にぐるぐるに巻かれた包帯は痛々しかったが、本人はそんな様子も見せず平然としている。じっと見ていた視線に気付いたのか、彼が横目で私を見た。



「なんだ?」

「…ケガ、大丈夫?」

「こんなの何でもねェよ」



そっか、と返すとああ、なんて返ってきた。大怪我を負ったのは彼だけじゃないにしろ、次の日…いや、戦いが終わる頃にはもうみんな何もなかったかのようにピンピンしていた。雷により焼けた肌はやっぱりまだ少し残ってはいるけど、彼らの回復力にはいつも驚かされる。すぐ治るに越したことはないけど、やっぱり凄いやって思った。



「………おめェ」

「ん…なに?」

「…あん時なに言おうとしたかはしらねェが」

「……あん時?」



ゾロの視線が私から地面に移る。あん時と言われてもその時は私にはいまいちピンと来なくて、ゾロの様子を伺っていると彼の大きな左手が私の頭に乗った。



「エネルがゲームの話をした時だ。誰かが消えなきゃなんねェってなったとき、お前何か言い掛けただろ」

「……あの時…」



思い出した。エネルが予言を的中させる為に、誰か一人が犠牲にならなきゃいけなかった、あの時だ。勿論みんなが嫌がった。当然だろう。私だって嫌だった。…だけど、考えても考えても、必要ないのは―――



「お前じゃねェよ」



瞬間、ゾロを見上げた。私の言いたいことが分かったかのような言葉だったから、びっくりして彼を見る。重みのある手が、まっすぐ私を見つめる目が、あたたかかった。それからすごく、安心した。
うん、って頷く事しかできなかったけど、ゾロの優しさが嬉しくて口元が緩む。



「何笑ってンだ」

「ううんなんでもない」



不器用だけど大きな手がガシガシ私の髪を撫でる。今まで何度も彼に救われてきた事を思い出す。彼に聞こえるかわからない程小さな声で私は、ありがとうと呟いた。


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