「ワイパー!!!」



アイサちゃんの叫び声が響く。だけどワイパーさんは、まるでそれが聞こえていないかのように微動だにしない。
私たちはワイパーさんが動くのを待っている。理由は一つだけ。“彼も一緒に”安全な場所に行く為に。放っておくなんてこと、ここに居る皆にはそんな思考は微塵もないのだ。

待っている間も、空からは数えきれない程の稲妻が島に突き刺さっていく。鳴り響く音は、聞こえない時間の方が短いんじゃないかってくらいずっと鳴り響いている。



「!!?」

「……っ!」

「危ねェ!!!」



一瞬、自分が死んだんじゃないかっていう錯覚に陥った。驚きと恐怖で心臓は凄まじい速さで動き、冷や汗が額に滲む。バリバリッと音を立てた大きな雷が、私たちの居る場所からほんの数メートル先に落ちたのだ。雲の上にいるのもあるせいか、その衝撃により身体は宙に浮き、少し離れた場所に尻餅をついた。



「………黄金の鐘……」

「黄金の鐘………!?貴様、今そう言ったのか…?」

「ええ」



ロビンが言い、ワイパーが尋ねる。
私はゆっくり起き上がり、さっきの衝撃により頭が雲に埋まっているウソップの腕を引っ張る。頭が抜けるとウソップは“悪ィな!”と声を掛けてくれて、顔に付いた埃をはらう。



「それをエネルは狙ってるのか…!?なぜわかる…どこにあるんだ…」

「おい待てよそんな事言ってる場合か!早く逃げよう死んじまうよ!!」

「この大きな蔓の…頂上付近」

「先に船で待ってるってナミにも約束したろ!!!あいつもすぐにルフィを連れて来んだからよ!!」

「この下層にあるシャンドラの遺跡…都市の中心部を大地ごとこの蔓が貫いている。だけど大鐘楼もその中心部に位置したと遺蹟の地図に記されていたわ。つまり鐘は蔓に突き上げられた衝撃で更に上空に飛ばされたと考えられる」



ワイパーとロビンのやり取りは、止めようとするウソップの言葉の上で続けられる。しばらくそうしていたけど、ウソップは諦めたように雲の上に胡坐をかいた。
一通りロビンの話を聞いたワイパーは「無理だよ追い付かない」と止めるアイサちゃんの言葉も聞かずに、そびえ立つ蔓をよじ登ろうと手をかけた。



「蔓から離れろ!!!何か落ちて来る!!!」



ウソップの言葉に見上げると、上からは巨大な緑色の物体が降ってきていた。驚きのあまり突っ立ったまま動けなくなった私の腕を引いてくれたのはウソップで、雲の弾力で手が離れそのまま私は放り出された。予想以上に勢いが付いたまま弾む身体は自分ではどうしようも出来ない。トンッ、とぶつかった先にいたゾロが私の身体を正面から受け止めてくれて、なんとかその場に落ち着いた。



「…蔓の…………先端…!!!上で何が…」

「お!!お!!おいまさかルフィ達の死体も一緒に落ちて来てやしねェか!!?」



ウソップの言葉にはどうやら心配はいらないらしい。良かった…と見上げた蔓の先。ホッとして何気なく視線を横にやる、視線はそこで止まる。
そこにあったのは巨大で真っ黒な球状の“雷雲”だった。今まで一度だって、テレビや写真でさえも見たことのない“それ”を見上げる。何が起こるのか想像もつかない。そこにあるのは変わらぬ恐怖のみ。



「………あ……」

「お…落ちた……」

「……!!!?」



バリバリッ――その音や光は、今までの雷なんかとは比べものにならない規模のもの。落雷というよりも、大爆発。余りの威力に開いた口が塞がらない。
―――島が一つ、跡形もなく、消えていた。
恐怖に思考も回らない。そんな感情がいつの間にか身体の震えに変わり、立っていることも耐えられずその場に座り込んだ。



「何だ今の爆発は…!!しかもまだ“雷の雨”は続くのか…!!!もう…生きて帰れる気がしねェよ…!!!」

「……エンジェル島を…消しおったのか…!!?…………何という…!!!何という…!!!非道を…!!!…エネル!!!!」



もう何も考えられなかった。…考えたくなかった、のかもしれない。
私の頭も身体も、もう空っぽになってしまったようなそんな気持ちになった。頭に被ったままの麦わら帽子をに手を添えて、きゅっと握り締めた。


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