舟は凄まじい音を立てながら土壁を削り、空に向けて浮いていく。今は未だ舟が引っ掛かっているみたいで本当の意味で浮いているわけではないけど、きっとそれも時間の問題だろう。



「この方舟の究極の機能への回路がすでに開き作動している。名を“デスピア”…“絶望”という名のこの世の救済者だ!!!」



舟からまた不気味な機械音が鳴る。ボウン…と、巨大な黄金の上に目をやれば、そこからはグレーの煙がもくもくと上がり、少しずつ確実に空を覆い始めていた。



「そうさ“雷雲”だ。私のエネルギーによって“デスピア”はきわめて激しい気流を含む“雷雲”を排出する!!!」

「“雷雲”!!?」

「やがて雲はエネルギーを増幅させながらスカイピア全土を闇と共に包み込む。それらは私の合図で何十本もの雷となり―この国の全てを破壊する!!!」



例えば…と、エネルは軽く右腕を上げる。上空を覆い始めている雲から、一本の筋がどこかにむかって伸びていく。すると落ちた先から聞こえる爆発音――どこかの街に雷が落ちたのだ。
私もナミも、ゴクリと息を呑む。



「神なら何でも奪っていいのか!!!」

「そうだ“命”も“大地”もな……さァ!!貴様には消えて貰おう!!!宴の準備は始まったのだ!!!」

「ナミっ!!」

「……っ、!!?」



ドンッと、ルフィによって弾き飛ばされた私の身体はナミによって支えられていた。ぶつけた腕からはまた血が滲んでいる。どれだけぶつければ気が済むんだろう…と半ば落ち込みながらルフィを見ると、凄まじい勢いでエネルと戦っていた。だけど動きを読まれるんじゃルフィにはどうしようもなくて。色々と模索しながら、何かを思い付いたのかルフィはさっきまでエネルが居た椅子の所まで移動をした。
ルフィはエネルではなく、ひたすらに壁を殴り付けている。私もナミも、エネルでさえもその行動を理解出来ずにいたが次の瞬間、壁から跳ね返った拳や足がエネルに襲い掛かっていた。



「!!?」

「もう逃がさねェぞ!!!」



エネルにとっても予想外だったらしく、確実に当たるそれが彼を大いに傷付けてゆく。それでもよろめきながらなんとか立ち上がり、言葉を発する間もなくルフィは次々に攻撃を仕掛けていた。何度も床に叩きつけられるエネル。何とか動こうとするがそれも叶わず、ルフィは懇親の一撃をエネルに向けて放った。最後はもう、何をされるか分かっていても動けない状態だったんだろう。エネルはその一撃で身体がぶっ飛び、壁に叩きつけられるとそのまま床に倒れた。



「ハァ…ハァ…ハァ…」

「………やった…………!!!…でも舟が……!!!」



ゴゴゴ…ガリガリガリ…と、その音が少しずつ変わってゆく。何かを削っていたような音は雑になり、大きくなっている。そしてガリガリという音は聞こえなくなり、舟が空へと動き始めた。このまま飛ばされてしまうのか…そんな不安が増していく。



「…ハァ…ハァ………!!!バカめ………!!これ…これしき…………ゲホ!ハァ…ハァ…!!!………ハァ…貴様さえいなくなれば…私の天下なのだ…」



意識を無くしたと思っていたエネルは、激しく息を乱しながらゆっくりと立ち上がる。だけどもうきっと彼もギリギリなのだろう。ボロボロになった身体は震え、立ち上がるのもやっとだという様子で擦れた声を絞りだしていた。



「貴様などが…この私に敵うものか!!!不可能などありはしない……我は全能なる神である!!!!」



確かに立ち上がり、そう叫ぶ。同時に激しく揺れた舟から見える景色が変わってゆく。引っ掛かっていた場所が今はもう自由になっている。
舟は、空を飛んでいる。



「……見てろゴム人間……………堕つ島の絶望…………もう誰にも止められん………っ!!!」

「やめろ!!!!」



飛び掛かっていくルフィに対して、エネルは何故か黄金に向き直った。そして自ら電気を発し、黄金を溶かしてゆく。そして溶かした黄金を、向かってくるルフィの腕に巻き付けた。隣からはナミが彼の名を呼ぶ声が聞こえる。みるみるうちに黄金は体積を増し、ルフィの身体の大きさを雄に越える大きさになって固まっていた。



「…ルフィ……!!」



エネルは黄金を舟の外へ蹴り飛ばした。腕に付いたそれに引かれ、ルフィ共々舟から落ちそうになっているのを何とか堪えている状況。



「貴様さえ封じてしまえば……また元通り…私の天下だ!!!私に敵う者などこの世にいなくなる!!!」

「この世にだと…!!?………!!!そんなもん!!いくらでもいるぞ…!!!」



何とか堪えているルフィは、息を荒くしながら叫ぶ。



「下の海には……もっと怪物みてェな奴らがうじゃうじゃいるんだ!!!お前なんか、」

「口の減らん小僧だ…墜ちろ、空島と共に…!!!」

「お前なんか……!!!」

「やだ…ルフィーっ!!!」



もう声が出なかった。もう逃げられないんだって思った。ここに来てから何度目かわからない涙が床に落ち、染みを作る。
墜ちていったルフィ。その先にはアイサちゃんとピエールも居たらしい。そこに何の感情も抱かないエネルの雷が、無情にも…――落ちた。


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