ナミに支えられ震える身体を無理矢理動かして、ウェイバーを持つ腕と反対の手をぎゅっと掴みながらエネルの後を着いていく。辿り着いた場所は土壁に囲まれており、思わず目を見開いてしまうようなものがそこにあった。



「これは…」

「驚くのも無理はない…………世界唯一!!この舟は私のみが操れる舟だ」



そう、目の前には大きな舟があったのだ。エネルだけが動かせて操ることができる舟、空を飛ぶ、舟。



「方舟“マクシム”!!!!この舟で我々は“限りない大地”へ到達する!!!」



盛大な笑い声が響くと、焦りと恐怖に力が入る。繋いでいる手がどちらのものか分からない汗がじんわりと滲む。頭が危険だと判断しているけど、今の私とナミは彼の後を着いていくしかできない。彼はいつでも私たちを殺すことが出来るのだ。
重い足を動かしながら、舟に入っていくエネルの後ろを歩く。固く握られた手が唯一、私を安心させてくれていた。



「…あ…あなた達のその“心網”っていう力は人物まで特定できるんですか?」

「私の場合特別だ。“心網”に加えてこの雷の体で電波を読み取り会話を聞くのだ。どこぞでくだらぬやり取りが聞こえれば…裁きを与える。この国一刻分の距離くらいわけはない……―――だが」



赤い絨毯を歩き、階段を上っていたはずの彼の足が止まる。振り返ると、何を思ったのか今度はゆっくりと私達の方に向けて歩いてきた。その目はナミではなく、確かに、私だけを捕らえている。目を逸らす事すら恐怖で出来ない。私の前に足を止めると、鋭い視線が私を射抜く。ふと伸びてきた彼の右手が、そっと私の頬に触れ、顎を持ち上げ顔を上げさせる。触れた手からはピリッと電気を感じ、額にじんわりと嫌な汗が滲む。



「―――お前の声は他の者とは比べものにならない程、薄い。耳を澄まさねば存在を感じる事すら困難だ。何かの能力者か?」



問い掛けに首を横に振る。しばらく突き刺さったままの視線に、滲んだ汗が流れ落ちた。



「まぁ良い…直に終わる……。スカイピアの終演だ…空に舞う天使達の宴……!!!おい貴様ら…突如足場を失う人間達の形相を見た事があるか……!?ヤハハハハハハ!!!!」



視線と共に私から手が離れ、愉快な笑い声を響かせながらまた絨毯を歩き始めた。
…怖い。触れられていた手の感触が未だに残っているようで、その気持ち悪さに口が渇き、身体の中からゾッと寒気が襲ってきた。ゆっくりと口から空気を息を吸い込み、激しくなっていた心臓を落ち着かせようとした。まだ呼吸は荒い。そして、胸が、心が、ずっと苦しいままだった。
ふと、エネルが辺りをキョロキョロと見回しはじめる。目付きは鋭く、先程までの笑いは無い。ナミがどうしたのかと問い掛ければ、返ってきたのは何でもないっていう素っ気ない返事。そして向かっていた階段から向きを改めて、外へと歩きだした。ナミと顔を見合わせると、相変わらず厳しい表情のまま口を開く。



「…私たちも行ってみましょう」



余計な事を言わないように、言葉を選んだのだろう。“何かある”のだと含まれたその言葉に私は息を呑みながら大きく頷いた。


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