空に居るべきは神のみ。他に人間はいらないのだと、エネルはそう言った。



「国を消す気か!!!」

「それが自然…」

「思い上がるなエネル!!!“神”などと言う名はこの国の長の称号にすぎんのだぞ!!!」

「……今まではな………」


「人の生きるこの世界に“神”などおらぬ!!!!」



ガン・フォールさんの精一杯の叫び声が拡がった。胸がキュッと締め付けられる。彼は“元・神”で、きっと彼が神様だった時はこんな風な空島とは全く違ったんだろう。彼が神様だった頃に空島に来ていたとしたら、今とは違ってもっと楽しく過ごせていたのかもしれない。だけどそれももう叶わぬ事。今、私たちがいるこの“空島”はエネルの手により支配されているから。
それを示唆するように、エネルは神隊について話し始めた。ガン・フォールさんの部下650名はもう、エネルが手を下したと言う。



「貴様悪魔かァ!!!!」



ガン・フォールさんの声が再び響いた。その声は私の胸にも突き刺さる。大事で、大切で、何よりきっと、愛しくて。――彼は空島を愛しているんだ。
辺り一面が稲光に包まれたのはその直後。見なくても何が起きたのかは想像がついた。チョッパーを抱き締めている手に更に力が入り、ぎゅっと固く目を閉じる。もう何も見たくない、聞きたくない…そんな気持ちでいっぱいだった。



「――さて、丁度“予言”の時間……これで6人だ」



どうしてこんな状態なのに、落ち着いていられるんだろうか。



「ヤハハハよくぞ生き残った!!これから私が旅立つ夢の世界“限りない大地”へ、お前達を連れて行こうじゃあないか!!!」



どうして、笑っていられるのだろうか。
腹が立つ。むかつく。だけどそれより悲しかった。人が傷付いている、その傍に居るのに何も出来ない自分がただただ悲しかった。



「ロビン!!!!」



バリッと嫌な音。今度倒れていたのは―ロビン。ナミはカタカタと震える私の手を握ってくれる。だけどその手も震えていた。



「ゾロ!!!」



どんどん人が倒れていく。真っ黒に焼け焦げた人の姿が横たわっていく。
まだ死んでいないと思うのに、人の死を見ているようで怖くなる。自分の死を身近に感じて恐くなる。悲しくて切なくて、苦しくて……ぐちゃぐちゃな感情が私の中を廻っている。
固く閉じた目にはもう何も映らない。聞こえてくる音だけが唯一の情報源。




「…むー、もう、大丈夫みたい……」



ぎゅっと握られた手に、閉じていた目蓋を上げて視線を向けた。私の目に映ったのは、ボロボロになりながら横たわる者を見下す男の人と、見下される、エネル。
静まり返った空気に、ぐちゃぐちゃだった感情があふれ出る。



「行こう、みんなの所」



よろめきながら立ち上がり、ナミが駆け寄っていく方を見た。ゾロは大丈夫そうで立っていたけど、ロビンもガンフォールさんも横たわったまま動かない。エネルも、動かない―――はずだったのに。
バリッという音と共に流れた電流が通ったのは、私やナミやゾロではなく、エネル自身で。



「――人は…“神”を恐れるのではない…“恐怖”こそが“神”なのだ」



何事も無かったかのように起き上がり口元の血を拭うと、不気味な薄ら笑いを浮かべながら私たちにそう言葉を放った。


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