船の外は変わらず真っ白。まるで私の荒れた胸中を落ち着かせるかのように穏やかな空気が流れている。ナミは直してもらったウェイバーに乗り込み感触を確認している。空島にくる前にメリー号に落ちてきたのは骸骨やガラクタだけでなく、この古びたウェイバーも落ちてきていたらしい。



「――しかし、さて、これからどうしましょう。みなさんがご一緒ならスカイピアの果てへご案内するつもりだったのですが」

「……んん、とにかく船は約束した海岸へつけなきゃ。無事だとは思うのよね。あの4人が揃ってれば敵もないわよ…」

「“4人組”なんて島にいないよ」



一通り乗り回して満足したのか、ナミが船に上がってきた。船には私とナミとコニスさんとオジサンの他に1人の小さな女の子がいる。ひざを抱えるように座る彼女の名前はアイサちゃん。彼女もまたエネルと同じように“心網”が使えると言う。



「生まれつき使えるんだあたいは!!…だから恐いんだ…“声”が消えていく怖さが、あんた達にわかるもんか………!!!」

「アイサさんは…ウェイバーが壊れたらしくて空魚に襲われているところを私達が通りかかって………」

「何するつもりだったのよ」

「知らない!!……でもじっとしてられないじゃないか!!!」



胸にしみ込んでいく言葉たち。この世界じゃいつもどこかで誰かが傷ついていて、それは私も分かってるつもりでいる。だけど私には彼女に聞こえるそんな声は聞こえないし、わからない。こんな小さな女の子が“声が消えていく”事にいつも恐怖を感じながら生活している。きっと私が感じてるものとは桁違いの恐怖を、アイサちゃんは常に感じているのだ。
彼女に対する感情は、可哀想とかそんな気持ちじゃない。言葉にするのは難しいけど、切なくて悲しくて…その不安は空気を伝って私にまで襲い掛かってくる。
だけどそれだけじゃない。私の胸を締め付ける感情は、それだけなんかじゃない。



「アイサちゃんっ…!」



何をすれば良いか分からない。だけど何かをしなきゃいけないって漠然としたそんな感情が彼女を動かしているんだろう。アイサちゃんは船を飛び降りて雲の海へと飛び込んで行った。
こんな小さな女の子にある“勇気”が、私には足りてなくて。守ってもらってばっかりで、私はいつもみんなが傷付くのを見ているだけ。



「むー!?」


「アイサちゃん大丈夫?危ないよ」

「離せ〜!!みんなを助けるんだ〜!!!」



暴れるアイサちゃんを抱え込むようにして捕まえる。
悔しくて、悲しくて。何も出来ない自分が嫌いだっていつも思ってた。だけどいつもそれだけ。嫌いだって言うなら変われば良いのにそんな事も出来やしない。好きになる努力もしないで自分が嫌いだなんて言い続けて、結局いつも逃げてばっかり。
頑張るって決めたけど、何を頑張った?強くなるって決めたけど、一体どこが強くなった?
そんな自問自答を繰り返しながら、暴れて逃げ出しそうなアイサちゃんを更にぎゅっと抱き締めた。



「ったく2人とも無茶するんじゃないわよ!!子供の戦士も暴れてないで戦士らしくしたらどうなの?」

『ゲップ』

「え??……ええ!!?」



ナミも飛び込んできて私とアイサちゃんに少しのお説教。船に戻ろうとした時に現われたのは、とんでもない大きさの魚。まるで鰻かウツボや蛇のような、青い不気味な生き物。船を丸呑みしても余裕のありそうな口をめいっぱい広げて、恐ろしい鳴き声を発しながら私達の方に向かってくる。
逃げなきゃ、とナミがウェイバーに乗り込み、私とアイサちゃんもナミに捕まって、なんとか一緒に逃げ切った。



「……………………入っちゃった…………森の中…」



顔を見合わせれば、今にも泣きだしそうなナミと涙を流すアイサちゃんが見えた。どうなるんだろうっていう不安と恐怖が、今、この場にいる私達3人を覆い尽くしている。


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テーマ「人外ファンタジー」
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