悠々と船に座り、ほくそ笑みながら私たちに視線を向ける一人の男。神エネルが、私たちの目の前に現れた。



「サンジっ…!」



目の前に倒れた彼は、エネルの手により真っ黒に焼け焦げている。嫌な臭いが鼻を掠め、身体を揺らしても名前を呼んでも何の反応も寄越さない。背筋が凍る。ゾッとする気配が背中を上り詰め、気持ち悪い感覚が全身を襲う。



「………!!!おいっ!!!心臓の音が聞こえねェぞ!!!」



反対側でサンジを見守るウソップが彼を持ち上げると、ガクンと首が力なく、落ちた。――絶望、とでもいうのだろうかこの感情を。ぎゅっと、彼のボロボロに焼け焦げた服を掴む。鼻の奥をツンとした感覚が込み上げてくる。



「ヤハハハ…バカな音だな…別に私はお前達に危害を加えに来たわけではないというのに…」

「ならば何をしに来た!!!」

「ヤハハ冷たい言い種じゃあないか…実に6年ぶりだぞ…!!!――先代“神”ガン・フォール」



気持ち悪い、気持ち悪い気持ち悪い。ムカムカする胸、それをエネルの声が更に煽らせる。
神なんかじゃない。こんな奴、神だと名乗っていいはずがない。渦巻く、真っ黒で不確かな感情は私の中をどんどん侵食していく。



「ちきしょう!!!こいつ…サンジを……………!!!殺しやがったァ〜!!!!」



ウソップの声が響く。心臓が動かないと泣きながら確認するウソップの手元を、滲みゆく視界に入れる。



「………………ウソップ」

「な゙っ…んだよォオオ!!!」

「……心臓って右にあるんだっけ」

「…………」



ポケッとするウソップの手を退け改めて彼の心臓を確認すると、彼の心臓は微かではあるが確かに、確かに、動いている。良かった助かったんだと喜びを分かち合う。さっきとは違う理由でまた、視界が霞んでいく。
サンジが生きているって、そんな幸せを噛み締める。よかったって、そう安心しきっていたのが、いけなかったのだろうか。



「え…………………!!!」

「貴様…!!!」

「黙っていれば…………何も……しない……」



ウソップがサンジの上に、ドサリと倒れこんだ。その姿はサンジと同じように真っ黒な姿で、私とナミは何もできずに口を手で塞ぎ、薄ら笑うエネルを見つめた。私とナミの顔は真っ青だろう。呼吸をする事さえ許されないのではないかと錯覚してしまう。怒りや不安と言った先程までの感情は全て、一瞬にして恐怖へ塗り替えられた。喋るなという忠告に対して、私もナミもただ頷くしか出来ないでいる。ちっぽけな自分が、また、大嫌いになった瞬間。
言葉を続けるエネル。彼の望むものは“黄金都市”で、そして6年掛かりで準備してきた事がもうすぐ終わると言い――消えた。その薄気味悪い笑みが頭に張りつき、それはまた私たちを大きな不安へと導いてゆく。



「ほっほーう!!」

「何よ!!誰あんた達!!」



落ち着くような暇もなく、また誰かが二人、この船に舞い降りてくる。



「“何よ”じゃなーい!!よくも兄貴を!!!」

「おれ達は“服神兵長”!!!よくもサトリの兄貴を〜!!」

「ほっほほーう!!」

「なァに!?兄貴って…!!知らないわよ!!」



ホトリとコトリと名乗る二人は同じ動き、同じ姿で軽やかに飛び跳ねる。三つ子の兄が私たちにやられたと怒りを露にしている。そんな彼らは戦闘体勢でこちらを向いている。
ただ見つめるだけしか出来ない私を余所に、ガン・フォールさんは槍を、ナミも自らの武器を手に持ち、構える。



「さっさと片付けてエネルを追わねば…!!あやつ我輩の部下達を皆殺しにもしかねんっ!!我輩これしきの傷でこやつらになぞ負けやせぬ!!退いておれ娘っ!!」

「いやよっ!!たまには私だって……こいつら…………守ってあげなくちゃ!!!」



勇ましいナミに、自分を並べた。何も言えない、何も出来ない自分に今まで何度も悔しい思いをしてきたけど、



「……私っ…」

「むーはサンジとウソップを見てて!!こっちは…私たちが何とかする!!!」



やっとのことで絞りだした声も、ナミの言葉により一蹴される。
私とナミがこんなに違うんだって事、痛いくらいに思い知らされる。自分でもよくわかってたはずの事が、酷く私の胸を掻きむしった。


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