勝つために毎日、毎日遅くまで残ってみんなはテニスをする。マネージャーとして私も一緒にいるわけだけど、頑張ってるみんなを見てると私も頑張らなきゃって思う。


「お疲れさま!」


一緒にいるって言っても私がテニスをするわけじゃないから(っていうか出来ない)、特に何が出来るわけでもないけど。ドリンク作ったりタオル交換したり、そんな事をひたすら繰り返す毎日。ぼーっとする時間の方が長いような気がして、そんな時ふと、私って必要なのかなって思った。


「むーちゃんタオルある?」

「あ、うん、はいこれ」

「おおきに」


休憩に入った忍足くんが汗を拭きながら私の隣に腰を下ろした。
キャーキャーと聞こえる女の子たちの声が耳に入ると忍足くんは小さくため息。


「こんなん見てて何が楽しいんやろ。毎日同じ事しかしてへんのになぁ」


そうやって彼が呟いた言葉が耳に入ってくる。何て言えばいいのかなぁって考えてるうちにガッくんも来て忍足くんの隣に座る。
あの女の子たちも皆の事が大好きで、テニスをするカッコいい姿を見ていたいんだろうなぁ。ラケットを振るたびに聞こえてくる歓喜の声は毎日練習が終わる頃まで響き渡っていて、確かに、凄いと思った。


「みんなかっこいいからだよ」

「むーちゃんもそう思う?」

「うん、当然!」


口角をちょっとだけ上げて笑うと、渡したドリンクボトルに口をつけた。
そう、みんなかっこいい。凄く強くて、容姿だって文句ないくらい素敵な人ばっかり。
そんな中に私がいる不思議。何を取っても普通だし何でここにいるのか、今でも時々不思議に思うときがある。みんなが望んでいる場所に、なんの努力もしてない私がいる。きっと私なんかよりもずっと仕事が出来る人、この大勢のなかにはいっぱいいるに違いないのに。
ああ、なんかちょっと、不安だ。


「あ、2人とも呼ばれてるよ」

「あー…ほな、行くで、岳人」

「最後のひと踏張りだな!」

「頑張ってね」


行ってらっしゃい、って言うと2人とも笑顔でコートに入っていった。
代わりに来たのは日吉。さっきの忍足と同じように私の隣に座って、タオルとドリンクを渡すと無言で受け取った。


「お疲れさま」


どうも、と一瞬だけ私を見て、小さい小さい声で呟いた。日吉の綺麗な髪の毛が汗で顔に張り付いてる。年下なのに私よりもずっと綺麗で大人っぽいのは、本当に羨ましい。


「ねぇ日吉」

「なんですか」

「私ってさ、テニス部に必要だと思う?」


私の口から出た唐突な問いかけに、日吉の視線が一瞬だけ私に視線が向いたのが分かった。
何でかわかんないけど、皆に言えないようなことが日吉といる時にはポロッと零れる瞬間がある。油断しきってるのかもしれないけど、なんか日吉には全部見透かされているような気が、しない事もない。だから、なのかなぁ。
日吉は何も言わない。なんか馬鹿みたいになってきた。後輩に何を聞いてるんだろう、私ってば。


「あは、やっぱり何でもない、気にしないで日吉」


あはははっていつもみたいに笑っているのは私だけで、日吉の表情は変わらないまま。やっぱ変な事が聞いちゃったなってちょっとだけ後悔。


「…たぶん、」

「う、ん?どした?」

「いてもいなくてもあんまり変わらないと思います」

「……ぐさっときたよ日吉」


私が見つめる日吉の視線はずっとテニスコートを見つめている。ぐさっときたけど、日吉の言ってることはきっと本当のこと。ああどうしよう予想以上のダメージだ。自信なくなるよ、ちょっとくらい気を遣ってほしかったな日吉。(自信なんて元々、ないけどさ)


「でもいてくれないと困ります」

「…日吉」

「貴方が頑張ってる事はみんな知ってます。愚問ですね」


吐き捨てるように言われたその言葉に、なんかよくわかんないけど、ほんのちょっと泣きそうになる自分がいた。別に期待してたわけじゃないけど、日吉から出た言葉は私の期待以上のものだった。


「なんかもう日吉だいすき!」


っていうかみんなだいすき!
日吉の腕を持って盛大に揺する、揺する。私から出た言葉に目を見開いた日吉は、その揺れに抵抗する事なく揺すられ続ける。戻ってきた跡部に止められてようやく止まる揺れに、日吉は立ち上がってコートに歩いていく。


「なにしてんだテメェは」

「もう、跡部、だいすきだよ!」


はぁ?と歪んだ顔。
嬉しかったから、なんでもいい。うまく出来ないこともあるけど頑張ってたのは本当のことだから。私の頑張りをみんな知ってる、ってその一言でまた、今までよりもっと、ずっと頑張れる気がした。


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