最近部活に顔を出さない跡部。生徒会とかで忙しいみたいなんだけど、やっぱり跡部がいないとなんかイマイチまとまらないような気がする。みんな頑張ってるんだけど、やっぱり、なんか足りない気がする。
「また跡部おらんかったな」
「忙しいみたいだね」
「トップも大変やなぁ」
部活終わりに部室で優雅にジュースを飲みながらみんなでだらだらとした会話。
ガッ君と宍戸はソファーでゲーム、ジローくんは床で寝てて、それがいつもの光景。みんな何をするわけでもないけど、部活が終わってもしばらく部室を離れない。多分女の子たちが帰るのを待ってるのもあるんだと思うけど、でもまぁ、帰らないんだけど。
「最近跡部の顔見てない気がするなぁ」
「あ、俺もそんな気がします」
「自分らは学年も違うからな。まぁ…なんやいつも忙しそうにしてるで」
私だけじゃなくてみんなも感じてる事らしい。心なしか部室もいつもより静かな気がして、なんだか物足りない。私だけじゃなくてみんなもきっとそう思ってる。と、思う。
「なんかさみしいね」
「…いやそれはないけど」
ジュースを啜りながら忍足くんが言った。
しばらくダラダラしてから周りも落ち着いてきたのか、皆が帰りの支度を始める。外にはまだ女の子がいっぱいいるけどそれも適当にあしらって皆で一緒に帰る。仲いいなぁ、ってそれがまた嬉しい。
「…あ、携帯ないや」
「はぁ?どっか落としたのかよ」
「違うよ、多分教室かなぁ」
「何で気づかねぇんだよ」
「だって部活中は携帯触らないんだもん。取りに行って来るね」
宍戸がため息を吐いた。待ってるって言ってくれたけど暗いしいいよって言ったらホントに帰っちゃった。(ちょっとくらい待っててくれてもよかったのにね!)
教室に戻ると廊下も教室も当然真っ暗でやっぱりちょっと怖い。携帯を見付けて手に持って、怖いなぁって思いながら廊下を歩く。すると奥の部屋に明かりがついているのが分かる。あそこはきっと生徒会室。ってことは多分、あそこには跡部がいる。多分。ちょろっと隙間から覗いてみるとやっぱり、広い部屋の真ん中に跡部がひとり座ってた。
「あとべー」
「あン?…んだテメェかよ」
「生徒会?」
「あぁまぁな。…そこにいるなら入ってこいよ。帰るならさっさと帰れ」
入っていいの?の質問に肯定の言葉を返してくれたから、何げに初めて生徒会室に入る。広くて静かでなんか落ち着かなくて、とりあえず跡部の隣に座った。
机の上には大量のプリント。内容は文字ばっかりで全然わからないけど、跡部は大変なことしてるんだなって思った。
「何してるの?」
「言ってもわかんねぇだろ」
「わかんないけど…ずっとこれやってるの?ひとりで?」
「あぁ、仕事だからな」
一枚一枚軽く目を通して二つある山に振り分けているらしい。それにしてもすごい量。こんなの1人でやらなきゃいけないなんて。それを任される跡部もすごいけど、やるって言った跡部はもっと凄いと思う。
「呼んでくれれば手伝うのに」
「テメェには出来ねぇよ」
「話し相手くらいにはなるかもしれないよ?」
「話してたら終わんねぇんだよ」
視線はずっとプリント。こんな会話してる間にも跡部は手際よくプリントをさばいていく。すごいなぁって思うだけで何も出来なくて、見てるだけしかない私は手持ち無沙汰。視線は壁を行ったり来たり。
すると跡部の手が止まる。
「どしたの?もしかして私、邪魔してる?」
「邪魔なのは確かだ」
「え、うそ、なんかごめん…」
「今更だろうが」
ふぅって息を吐いて、小さく笑いながら椅子にもたれて大きく伸びをした。肩とかポキポキ流しながら、滅多に見られない疲れてる姿になんか心配になる。
きっと何も食べてないんだろうなぁって、カバンをガサゴソ。訝しげに私を見た跡部に、見付けたそれを差し出した。
「疲れた時には甘いものだよ」
「あーん?たまには気が利くじゃねぇか」
「意外と好きだよね」
差し出したのはいわゆるドラ焼きってやつで、意外と跡部はこれを気に入ってるみたいでぱくぱく食べる。跡部がコンビニで100円くらいで売ってるドラ焼きを食べるってなんだ違和感かあるけど、同時に親近感も湧いてくる。
ニヤニヤすんなって怒られたけど、面白いんだから仕方ない。鞄に入ってたお茶を差し出すとそれもちゃんと飲んでくれる。(意外と優しいんだよね)
「いつ終わるの?」
「今日中には終わる」
「まだまだあるよ?」
「あと2時間もありゃ十分だ」
「毎日そんな時間までやってるの?」
「じゃねぇとあと1週間は終わんねぇんだよ。部活も行かなきゃなんねぇしこれくらい当然だ」
うわぁって思ってると、気付いたのか先に帰れって言った。でも帰んないよ私、跡部だけ毎日こんなに大変だなんてなんか、不公平な気がしたから。
黙々と仕事する跡部見てると、やっぱりトップの人は違うんだなぁって改めて思う。それと同時にもう1つ思ったこと。
「跡部ってばかだよね」
「…てめぇ、」
「誰かに手伝ってって言えばいいのに。1人でこんなの大変だよ」
「仕事なんだよこれが」
確かにそうかもしれないけど。だけど、なんか理不尽っていうか違う気がして、跡部が可哀相っていうか、なんかへんな感じ。私になんか出来ないかなって考えても何も出来ない、けど。
「忙しい時、呼んでね」
「何も出来ねぇだろうが」
「話し相手はできるってば!」
「話してたら終わんねぇっつっただろうがアホかテメェは」
呆れたみたいにため息吐いたけど、それも一瞬で次の瞬間には笑いだした。
「けどまぁ、そんなに俺に相手して欲しいんなら相手してやるよ」
「えー?それは跡部でしょー」
「バカ言うんじゃねぇ」
なんか納得いかなかったけど。
それでも跡部が忙しいのも終わりだって思うと何だか嬉しくなる。明日からまたいつもの部活に戻るんだって、それが凄く嬉しくて。ニヤニヤしてる私の後頭部に跡部の鞄が直撃、それでもこんなの嫌いじゃないなぁって、なんだかあったかい気持ちでいっぱいになった。
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