朝礼で集まった校庭。毎日こうやって全員が集まっているわけではないけど、毎回同じような話ばっかりする校長先生の話を聞くのは正直、しんどい。
「早く終わんないかなぁ」
「せめて座らせてよね」
後ろから聞こえてくるそんな声。
今日は何だかいつもより身体が怠い。朝はそうじゃなかったのになぁって思いながら、少しの息苦しさに深呼吸。だけど変わらない、むしろ余計に苦しくなってくる。暑いなぁって腕まくりをしたり扇いでみたり。今日は天気がいいからなぁ、なんて。
そのうち周りの声が遠くなる。目の前がゆっくりと、薄暗い何かに覆われてくる。校長先生が何か言っているけれど、何もわからない。あ、やばいかも、と気付くけれど何となく頑張らなきゃいけないような気がして、本当は立っているのもやっとな足に力を入れて踏張って。早く終われ、早く終われ、頭の中はそればっかり。
周りが動き出した。私も歩こう、とふわふわする足をなんとか動かして。……あれおかしいな、動かない、
「…え、ちょ、大丈夫?」
「顔、真っ青だよ!」
「どうした?…貧血か?」
クラスの女の子と男の子が私を支えてくれていた。何を話してるかもイマイチ理解出来なくて、近くの階段まで運んでくれた。
ああ私、倒れそうになっちゃったんだ、なんて何だか他人事。
「大丈夫?…真っ青よ」
「皆はもういいから教室行きなさい。授業間に合わないぞ」
先生が残ってくれてしばらくその場に座り込んで休憩すると、何だかほんのちょっとだけどスッキリ。歩ける?って聞かれて頷くと、ゆっくりでいいからねと支えられながら歩く。うわぁ、真っ直ぐ歩けないよ、って不思議な感覚になりながら保健室に着いた。
保健の先生は今日は出張でいないらしく、先生も授業があるから出ていって、保健室は異様なくらい静かな空気になった。目蓋が閉じていくのは、ごくごく自然なことだろう。
「大丈夫かいな」
「…あ、うん大丈夫…」
「びっくりしたぜ、なんか立ちながらずっとフラフラしてるしよ。激ダサ」
「まだ顔色悪いC〜…」
「クソクソッ!体調悪いなら言えよ!」
みんな心配してくれて、私のベッドを囲むようにして立っている。起きた瞬間ちょっと怖かったけど、でもこうやって心配してくれるのはすごく嬉しかった。
「ただの貧血だから大丈夫だよ」
「朝飯ちゃんと食うたか?」
「ん、毎日食べてるよ」
起き上がっただけなのにみんな必要以上に心配してくれる。確かにまだ怠いし、まだ顔色良くないよって皆が布団を被せてくれる。なんかみんなお母さんみたい。心配性だなぁって、みんなちょっと意外すぎるよ。
10分の休憩はみじかくて、みんながいなくなると突然静かになってなんだか寂しい。
本当はだいぶ楽になってたけど、先生もいないしせっかくだからもうちょっとだけゆっくりしていこう、なんて悪知恵が働き布団に潜り込んだ。
「…………あ、と…べ?」
「あぁ起きたか」
「あれ、日吉と鳳君もいる」
「いちゃ悪いですか」
「そんな事言ってないよ」
「倒れたって聞いたので…」
目を明けると、隣には跡部と日吉と鳳君が椅子に座って何かを話し込んでいた。なんか病室みたいだなぁなんて思ったけど保健室なんだからそこまで違いはないのかもしれない。(…いや全然違うか)
どうしたの?って聞くと跡部と日吉は眉間に皺を寄せてうっすらと目を細めて私を見る。鳳君は相変わらず心配そうに眉を八の字にして私を見ていた。
「どうしたの、じゃねぇよ」
「大丈夫ですか…?」
「うん、大丈夫だよありがとう」
「やけにケロッとしてますね」
「貧血なんてそんなもんだよ」
心配して損した、とでも言いたげにため息を吐く日吉。鳳君は素直によかったと笑顔を浮かべてくれて、跡部は小さく溜め息。
「あ、待って私も行く!」
ベッドから降りるとほんのちょっとだけ足元がフラつく。ガシッと腕を掴んでくれたのは跡部。ありがとーって言うとアホかって言われた。ただの立ち眩みだよって笑うと跡部は掴んだ腕を離してくれた。
「今日は部活には来なくていい」
「えー?大丈夫だってば」
「ダメだ」
「心配性だなぁ」
「…テメェが来ると他の奴らも心配すんだろうが。選手に気を遣う事はあっても遣われるな」
跡部の言うことは全くその通り。しかもみんな心配性だから、私が仕事してても心配してくれるって、根拠はないけどそう思う。大丈夫って言ってもきっとそれは変わらない。
「あ、跡部、さっきの授業のノート見せて。日吉、鳳君もありがとう!」
教室に帰っていく二年生を見送って、私と跡部も教室に帰る。なんか最近ずっと幸せだなぁってそんな気持ちになるのは、みんながいてくれるからなんだろう。
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主人公の子が倒れて運ばれてるとき、みんなどこかから気付いてその場面を見ていると思う。クラスの友達といるから口には出さないけど、すごく心配してると嬉しいなぁ。
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