私が麦わらの海賊船に乗るようになったのは、一体いつからだっただろうか。
ひとりぽつんといた私を拾ってくれた彼らと送る船上の物語は、約1ヶ月前から始まったんだったっけ。
「また怪我してる」
「あれはあいつらが悪い!」
島に着いて、出ていったと思えば早速怪我をして戻ってきたのはルフィ。
ご飯を食べていた時に私たち誰かのことを悪く言う奴らがいて喧嘩になったらしい。
大きな怪我が無かったのはやはりルフィの強さなのだろうが、小さな怪我だってあんまり多いと心配になる。
未だ怒りが収まらないらしく、ぶすっとした顔で座り込んでいる。
「消毒だけでもしとかないと」
「ああ、頼む!」
前までは消毒もいらないと言い張っていたのに、今では大人しくされるがまま。
怪我するたびに私が無理矢理そうしてきたからなのだろう、例え小さな怪我でも放っておくよりはずっといいはずだ。
「…そんな顔しないで」
「痛ぇんだもんよぉ」
「そんなこと…喧嘩して怪我するほうが痛いに決まってるよ」
「仲間のための喧嘩なら全然痛くねー」
いーっと痛みを我慢する顔に思わず、笑いというよりも苦笑いが漏れる。
顔や腕の擦り傷を消毒。
チョッパーくらい的確でもないしうまくもないけど、こういう簡単な応急処置なら出来るようになった。
できれば喧嘩をしてほしくないのだけど、仲間の事を悪く言われたとかそんなんじゃなくても海賊なんだから怪我は絶えないのは仕方ない事だと思う。
「ルフィ、」
相変わらずツンとしたままのルフィに声を掛けると、下唇を突き出したまま顔だけを私に向けてくれる。
ああ、ルフィにはこんな顔似合わない。
「あんまり無茶な喧嘩しないでね………心配だから」
「大丈夫、俺は強いから」
そんなこと、知ってる。
ぶすっとした顔のまま私に背中を向けたルフィだけじゃなくてサンジやゾロも、みんなが絶対に敗けないくらい強いことはよく知ってる。
だけど心配なんだ。
みんなが怪我して帰ってくると不安でいっぱいになるんだ。
…たった1ヶ月しか一緒にいない私だから、こういう事を言われるのかもしれないけれど。
こんなルフィの姿を見るのは初めてだったから、どうしていいのかもわからない。
そっとしておいた方が良いのかなと考えルフィの背中から目を離してその場を離れると、ほんのちょっと切なくなった。
「むーちゃん元気ないねぇ」
台所にお茶を取りに行く途中でサンジが話し掛けてくれた。
その手にはフルーツが盛られたお皿を持たれており、ひとつを私に差し出してくれた。
「ルフィが何であんな喧嘩したか知ってるか?」
サンジは勘がいい。
私がさっきまでルフィといた事を知っていたから、きっとはっきりと理由を分かっているんだろう。
「“戦力もなければ知識もない、そんな女を海賊船に乗せるなんてどうかしてる”…そう言われてどんな気分になる?」
「……私、のこと…」
「あのクソ野郎共にルフィが怒んのも仕方ねぇ。…そんな顔すんな、俺らは誰もそんな事思っちゃいねぇんだぜ?」
私が余りに不安そうな顔をしていたからなのか、ぽん、とサンジの大きな手が私の頭に乗せられた。
涙が出そうになった。
何も出来ない私のために、ルフィは怒ってくれて、喧嘩して、怪我までしてくれたのだ。
持っていってやれよとフルーツの盛られたお皿を渡してくれたサンジは、タバコをくわえたまま笑っていた。
「ルフィ」
再び名前を呼び振り向いたルフィはまだあの表情のまま、だったけど手に持ったフルーツに一瞬で顔がほころんでいく。
差し出すと凄い勢いで食べ始めこれまた一瞬で食べ終わる。
私のも差し出すと、キョトンとした顔を浮かべたがいいよって言うとニッコリ笑顔を浮かべてペロリと平らげた。
「ルフィ、ありがとう」
「ん?なんでむーが礼なんだ?」
足りねーって不満そうなルフィの顔や身体の傷が私の為なんだと思うとほんの少し申し訳ない気持ちになったけど、それ以上に嬉しい気持ちの方が大きかった。
明日一緒に飯食いに行こう!って言ってくれたルフィに大きく頷くと、太陽より眩しいんじゃないかっていうくらいキラキラした笑顔を私に向けてくれた。