島に降り立って、いつもみたいにのんびりと街を歩いている。
だけど背後にはずっと違和感。
誰かに着けられてるんじゃいかっていうくらい、私の足音と揃ったもう1つの足音が聞こえるのだ。
…いや、これはもうきっと、後を着けられているんだと思う。
もしそれが何処かの海賊だったとしたら、強い弱いも関係なく戦えない私にしてみればただの恐怖。
足音はどんどん近付いてきて、下を向いて早足になっていた私の前に立ちはだかる。
息を呑み覚悟を決めて顔を上げると、嫌な予感は的中。
私を見下ろしながら、薄気味悪い笑顔を浮かべる一人の男が立っていたのだ。
後退りすると同じように、それ以上に私に近付いてきて、ニヤッと気持ち悪い笑顔を浮かべながら筋肉質な腕を私に伸ばしてきた。
こんな時に何も出来ない自分が情けなくて悔しくて、震える手を握り締めて必死で恐怖と戦った。


「…うぐっ、!」

「うお、思ったより飛んだな」


一瞬の事でよく分からなかったけど、目の前にいた男は突然、消えた。
代わりに残っていたのは別の男の人で、飛んでいった男を見るように額に手を当てている。
私の方を振り返るとじろじろと私を見て、ポケットに手を突っ込んで口を動かした。


「大丈夫か?」

「あ…はい、大丈夫です……ありがとうございます…」

「なら良かった。治安はいい町だがだからこそあんな奴らも現れる」


気を付けろよ、と私の頭に軽く手を乗せてニカッと笑ってみせた。
そんな彼は何故かハーフ丈のズボンに上半身裸で、首には鮮やかなオレンジ色の帽子を引っ掛けている。
クセのある真っ黒な髪と、頬に見えるそばかすも特徴的だ。


「腹減ったな」

「…え、」

「よし、食いに行くか!」

「……え?」


ガシッと掴まれた右腕。
そのままズルズル引っ張られ、彼は鼻を利かせて小さな食堂に足を踏み入れた。


「……」

「うめェぞ、お前も食わなきゃなくなっちまうぞ…むぐっ」

「い…いただきます…」



机いっぱいに並べられた食べ物を頬いっぱいに詰め、両手に肉を握り締めて凄まじい勢いで食べていく。
まるでルフィでも見ているかのような見事な食べっぷり。
山ほどあった料理はあっという間に無くなっていく。


「腹もいっぱいになったし行くか」


立ち上がり、また私の腕を引いて店を出る。
……余りにもナチュラルで気付かなかったが、代金を払っていないのではないだろうか。
お店を振り返ろうとすると、急に前にひっぱられる体。


「待てお前らァァアアア!!!」

「おー今日のは威勢がいいね!」

「ちょ、っ、待っ、」


私たちがした事はいわゆる、食い逃げ。
店長さんが怒り心頭で私たちを追い掛けてくるが、私の腕を引く彼は反省どころか焦る様子もなくただ走り続ける。
その速さに私の足が着いていけずに転けそうになると、悪ぃ!とはにかんだ。


「久々に走ったぜ」


店長が追い掛けてこない事を確認すると走っていた足がゆっくりと止まった。
呼吸を整えているのは私だけで、彼はただただ笑っている。


「く、食い逃げ…」

「スリルあっていいだろ」

「…お金無いなら食べなきゃ良いのに、あんなに……あんなに食べてよく走って平気でいられますね」

「あんなの食ったのうちに入んねェよ!それに…金ならあるぜ」


ほら、と見せられたのはポケットから出したであろうお金で、シワシワのお札が握られている。
ならなんで、と私が彼を見ていると彼はポケットにそれを押し込んでまた笑った。


「ただ金払って飯食って、じゃあ別に面白くねェだろ」

「…面白みは、必要ですか」

「海賊だからな」


海賊なんだ、とは思ったが何だか返ってきた答えが答えになってなくてちょっと困った。
大きな背中にあるのは海賊のマークなんだろうか、やけに誇らしげに見える。


「帰るか」


私を見てまたニカッと笑う。
この笑い方も、何だかルフィに似ているようで。


「お前どっかの海賊?」

「…たぶん」


あははと笑いながら「らしくねェけどなー」と私の背中をバシバシ叩いた。
一応海賊、と、一緒にはいるけど私が実際海賊かどうかと聞かれると、答えはハッキリ出て来ない。
だけど、私が傾げた首を彼は肯定と捉えたらしい。
何かをぶつぶつ呟いたかと思えば、首に引っ掛けていたオレンジ色の帽子に左手を掛けて頭に被る。


「俺の名はエース」


よろしく!と、最後に満面の笑顔を私に向け、私な背中を向けて歩きだした。
何がよろしくなのかよく分からなかったけど、彼を見ていると何だか普段悩んでばっかりの自分の小ささに気付かされる。

私も帰ろう、と彼に背中を向ける。
他の海賊の人に助けられて挙げ句、食い逃げなんかしたとは皆には伝えられない。
今日のことをどんな風に話そうかなぁと考えながら、船に向けてのんびり足を動かした。
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