女みたいだな、と思った。

俺の体を這いまわるその長い指も、白い肌も、細い身体も。
パーツの整い過ぎた容姿は、ますますこの男を女性的に見せる要因にしかなり得ない。
そんな奴に毎日毎晩抱かれている俺は一体何なんだろうな、なんてぼんやり考えるとどうにも腑に落ちない気分にさせられる。


「何考えてんの」


余所見するなんて余裕だね、なんて機嫌の悪そうな声が上から降ってきて、顔を上げるとそこには拗ねたような表情の臨也の姿。
何か言い訳をしようか、と頭を巡らせて「お前のことを考えてたんだよ」なんて恥ずかしい台詞が脳裏に浮かんできた自分がおかしくて口元を緩ませると、臨也が不可解そうな顔をした。


「シズちゃん?」
「別になんでもねえよ」
「ふーん…」
「っあ!」


ぐ、と腰を押しつけられれば俺の中に突き立てられた臨也自身がより深い場所に届いて、思わず甲高い声が漏れる。
最初は恥ずかしくて仕方なかったそれも、今では少し慣れてきた。
とは言ってもやっぱり男が男に抱かれて喘ぐなんて恥ずかしいことでしかなくて、行為の度に唇を噛んで声を抑えようとする俺に臨也はいつも「我慢しないで」と言う。
「恥ずかしいんだ」と告げると「大丈夫シズちゃんは可愛いから」と何だかよく分からない慰めをされてしまう。

行為の合間に何度も唇を食まれ、その心地よさに頭の芯がビリリと痺れるような感覚が湧き起こる。
馬鹿みたいにシズちゃんシズちゃんと何度も名前を呼ばれ、その愛おしそうな声音に思わず視界がぼやけた。


家族とも、友達とも、違う。
今までこんな風に愛されたことも、こんな風に誰かを愛おしいと思ったことも無かった。
その相手が、殺したいほど嫌いで仕方なかったこの折原臨也だなんてどうも癪に障るけれど。

透き通った声で名を呼ばれる度、心が震えた。求められる度、愛されていると実感して胸が締めつけられた。
この忌々しい力のせいで、今まで誰とも心を通わせたことも体を触れ合わせたことも無かったのに。
今は腕を伸ばせば抱きしめてもらえる。手を握れば、握り返してもらえる。
そんな当たり前のことがとても嬉しくて、どうしようもなく嬉しくて、いつも泣きたくなるんだ。


「シズちゃん、好き。大好きだよ」


優しい表情でそう告げられて、また心が撥ねた。
俺の気持ちをたった1ミリでもお前に伝えられればいいのに。
でも、恥ずかしくてどうしたって言える気がしないから。
返事の代わりに目の前の細い体を目いっぱい抱きしめると、ミシリと嫌な音がして臨也の顔が歪む。
きっと必死で痛みに耐えているんだろうその顔がおかしくて、また口元が緩んだ。








BGM:坂本真綾



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