「シズちゃん夫婦ごっこしよう!」

またノミ蟲がくだらねえことを言い出した。





部屋に帰ってくるなり当然のように不法侵入をしているノミ蟲の満面の笑顔に出迎えられるのにも慣れてきた頃(いや慣れたくねえんだけど決して)、いつものようにお帰りなさいご飯にする?お風呂にする?それとも俺?なんてセクハラで訴えんぞと言いたくなるような台詞を言われるのかと思いきや、どっこい今日は少し違った。
でも相変わらず言ってることは意味不明で、ここはスルーするしかないと素通りした俺の腕を取ったノミ蟲は無理矢理ソファに座らせると、何が楽しいのかニコニコと笑顔を浮かべながら、手を差し出してくる。
ノミ蟲の手に何かが握られていることに気付き、一応受け取ってみると、それは1本の耳かき。


「何で耳かきが夫婦ごっこなんだよ…」
「だって、耳かきって言えば仲良し夫婦の象徴ともいえる行為でしょ!」
「夫婦じゃねえし仲良しですらねえし、つーかもう突っ込むの面倒くせえからスルーでいいか」
「駄目!シカト駄目、絶対!」


肩をぐっと握られながら耳かきを押しつけられ、どうにもこうにも逃げ場の無い状態。


「別にしてやってもいいけど、鼓膜破っても知らねーぞ」
「え、ちょ、シズちゃんそれリアルにやりそうで怖い!」


耳かきなんて誰かにしてやったこともされたことも無い。
もともと力の制御が死ぬほど苦手な俺にそんな絶妙な力加減が要求される行為を求めるなんてのが間違いだ。
臨也は腕を組んでうーんと唸ってから、ぽんと手を打った。


「仕方ないから、今回は俺がシズちゃんに耳かきしてあげることで我慢しようか」
「お前、するんじゃなくてしてもらいたかったんじゃねえのかよ」
「そうだけど、聴覚は惜しいしね。まあ俺は夫婦ごっこがしたいだけだから、どっちでもいいんだよ本当はね」


ソファに座った臨也が膝をぽんぽんと叩きながら、甘ったるい顔で、おいでハニー!なんてのたまっている。
こいつ本当ばかだな。
正直なところ面倒で仕方ないが、スルーしたことでコイツのねちっこい愚痴を散々聞かされるであろう未来を想像すると此処は我慢して大人しく従っていたほうがいい気がする。
しょうがねえな、と吐き捨ててから臨也の膝の上に頭を乗せてゴロリと横になった。
あ、そういや膝枕なんてのも初めてだ。


「シズちゃん耳小さいね」
「…知らねえよ、そんなの」
「ふふ、なんか照れるなあ」
「じゃあ、やめろ」


さらりと髪を撫でられて、臨也の細い指が耳の裏を掠める。
何だかくすぐったいその感触に身を捩ると、頭上から小さな笑い声が降ってきた。
ああもう、何だかむず痒い。
さっさと終わんねえかな、と目を閉じると耳の中にソッと細い棒が侵入してくるのが分かった。


「……っあ!」
「え?」


耳に異物感を感じると同時に、思わず唇から洩れた短い悲鳴。
驚いたように首を傾げて見つめてくる臨也に、なんでもない、と返すと臨也は何かに気付いたように口角を吊り上げた。
畜生、赤くなるな俺の顔。畜生、ニヤニヤするなノミ蟲野郎。


「シズちゃん、どうしたの?」
「…どうも、しねえ」
「ふーん…」
「…っん、ゃ、あ」


臨也が耳かきを動かす度に、ぞくりとした感触が体中を駆け巡る。
耳から足の先まで痺れていくようなその感覚に、頭がざわついた。
俺の意思とは全く関係なく勝手に洩れる声をどうにか抑えようと口元に手をやると、ニヤニヤと嫌な笑顔を浮かべる臨也に腕を掴まれた。


「シズちゃんさあ、もしかして…耳かきで感じちゃってるの?」
「感じてっ、ねえ…!」
「じゃあ、これは何なの」
「あっ!」


下半身をやわやわと撫でられれば、そこには明らかに反応を示している俺自身。


「シズちゃんて本当に全身性感帯なの?えろい体なのも大概にしてよね」
「何、言って…あっ、やめっ…んっ」
「これって神様がくれた奇跡ってやつかなあ?どこ触っても気持ち良くなれちゃう体を与えてくれた神様に感謝しないとね、シズちゃん?」


まあ俺は神様とか信じてないけど。
そんなことを言いながら股間をまさぐっていた臨也の手がパッと離されると、認めたくねえがどうにも物足りなくて身体が火照る。
きっと羞恥に染まっているのであろう顔で臨也を見上げると「こっち向いちゃ駄目」と頭を掴まれポジションを直された。
再び耳かきを突っ込まれ、身体がビクリと撥ねる。
ああ、嫌な予感がする。
気のせいであってほしいとひたすら願うが、一歩間違えばお前それ犯罪者だぞと言いたくなるほどニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべている臨也を見る限り、きっと俺の願いは神様には届かない。


「耳だけでイけるかどうか…試してみようか、シズちゃん?」









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