昔付き合っていた彼女は、そりゃあもう可愛らしい女の子だった。
得意料理は肉じゃがです、なんてイメージ通りのことを言うものだから嬉々としてじゃあ作ってよとお願いして出来あがった件の料理は、想像を絶する味だった。
何というか勿論、悪い意味で。





そんな懐かしい青春の思い出が何故か蘇って手料理が恋しくなってしまった俺は、ひとつの考えを思いつき仕事終わりに後輩に声をかけた。


「静雄、今日晩飯一緒に食おうぜ」
「あ、はい。どこ行きますか」
「お前ン家」
「は?」
「お前ン家行くから、何かメシ作ってくれよ」


料理をする静雄なんて正直かなり想像し難いが、コイツだって一人暮らしをしている身だ。
全く自炊出来ませんなんてことは無いだろう。
唐突な俺の提案に、静雄はたいして迷う素振りすら見せずいいッスよと答えた。
少しくらいは嫌そうな顔をするだろうと予想していた俺は、あっさりと快諾した静雄に少なからず驚いたが、まぁ本人がいいと言っているのだからいいのだろう。
じゃあちょっと準備するんで1時間後に俺ン家きてください、という静雄の言葉に俺は素直に頷いた。






「お前これ…自分で作ったの?」
「トムさんが作れって言ったんじゃないスか」
「いや、言ったけど…でもお前これは…」


きっかり1時間後に静雄のアパートを訪れた俺は、部屋の外まで漏れてくる食欲をそそられる匂いに期待を高まらせたが、テーブルにズラリと並ぶ料理達を見て、思わず絶句してしまった。
簡素なテーブルに並べられたものは、焼きたてのハンバーグに生野菜のサラダ、そして温かいコーンスープ。
正直、俺が想像していた静雄の料理というのは、まぁ男らしくガツンと炒飯とか。
基本的に誰でも失敗することのないカレーライスとか。
それか豪快にデカいおかず一品をメインに白飯をがっつくとか。なんかまぁ、そんな感じで。
まさかこんなにキチンと料理、しかもハンバーグだなんて可愛らしいものを作ってくれているとは思いもよらなかったわけで。
流石に時間無かったんでスープは買ってきたやつ温めただけですけど、なんて少し申し訳なさそうに呟く静雄の言葉がイマイチ耳に入ってこない程度に俺は驚きに包まれていた。

そんな俺の気持ちも驚きも知らない静雄は、テーブルに並べられているもの以外にもまだ何か作っているらしく、先程からダイニングとキッチンを忙しなく行ったり来たりしている。
なんていうか、これってあれだよなぁ…。
思わずポカリと頭に浮かんだ単語を俺は理性で奥へと押し込める。いや、でもやっぱりこれは…なぁ。


「新婚みてえ…」
「え?」


抑えきれずポツリと漏らした呟きは、運良く耳に届かなかったようで、きょとんとした顔で此方を見返してくる静雄に何でもないと手を振ると、可愛らしいと表現するには少々デカい新妻はまたひょこりとキッチンへと姿を消した。


「あ、トムさん何か飲みます?ワインとか有りますけど」
「え、お前ワインなんか飲むの?」
「いや俺も普段はほとんど飲まないですけど…こないだ幽が持ってきたんスよ。でもこんなの1人で開けたって飲みきれねえし」
「んー、じゃあ貰うわ」


ワイングラスなんて小洒落たものはないので、プラスチックのコップに赤い液体をトクトクと注ぐ。
形ばかりの乾杯をしてぐびりと飲み干す。うん美味い。そしてハンバーグを一口。うん美味い。
この見た目で不味いわけねえよと思っちゃいたが、これは本当に美味い。
この素晴らしい料理を作り出したのが、破壊しか知らない池袋最強の平和島静雄だなんて、にわかには信じがたい話だ。

美味い美味いと何度も連呼していると、静雄は最初こそ照れ臭そうに別に普通ッスよと謙遜していたが、俺があまりに絶賛するものだからそのうちはにかむように有難うございますと微笑んだ。
あ、ヤバイその笑顔は何か可愛いな。くそ、こんなギャップ反則だ。
こいつみたいな奴が彼女だったら…なんて恐ろしい考えを思いついてしまった自分に、いやいやそれは無い、無いだろ俺、と必死に警鐘を鳴らしまくる。
あぁ、でもそうだ。どうせなら



「…なあ静雄、お前肉じゃがって作れる?」


またも迷うことなく、はい、まぁと頷いた静雄がその翌日作ってきてくれた肉じゃがは、以前食わされたものとは比べ物にならないほど美味かった。









書きたいことが上手くまとまらなくて、とっちらかっちゃいましたが静雄が料理上手だと可愛いよねという妄想です。



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