※タイトル通りの映画パロ
※すごく薄暗い
※臨也がひどい
※静雄が可哀想





折原臨也と初めて会ったのは高校の入学式だった。
中学の頃に生徒会長を務めていたらしい臨也は新入生代表で、全校生徒の前で答辞を読んだ。
桜の咲き誇るこの良き日に来神高等学校に入学出来た事を、新入生一同心から嬉しく思います
なんて使い古された台詞を読む臨也の声は、凛と透き通り耳に心地よく響いた。


俺と臨也は同じクラスだった。
共通の友人である新羅を介して俺たちの仲は急速に縮まった。
毎日くだらないことで喧嘩したり、笑いあったり俺たちはよく3人でつるんでいた。
楽しかった。そうだ、あの頃は楽しかったんだ。


ある日の学校からの帰り道、2人並んで田んぼ道を歩く。臨也が空を見上げながらポツリと呟いた。
「シズちゃん、夢ってある?」
「いや…あんま考えたことねえな」
「ふーん。俺はあるよ」
「なんだよ?」
「空を飛ぶこと」
「………」
「今、馬鹿にしたでしょ」
「してねえよ」
「いいんだ、別に。夢見るのは勝手だからね」
そう言った臨也の目は、俺ではなくどこか遠くを見ているようだった。


臨也が豹変したキッカケなんて誰にも分からない。もちろん、俺にも。
何でだろう。何でなんだろう。
そう考えたことは何度もあった。だが、考えるだけ無駄だった。
もとから何を考えているかよく分からなかった臨也の心を、俺が推し量ってやれるわけが無い。
今の臨也なら尚更だった。
ひとつだけ言えることは、臨也は変わってしまったということだけ。ただそれだけだ。
仲の良かった頃の俺たちはもう居ない。
そこにあるのは決定的な力の差。支配する者と服従する者。
あの日から俺は、臨也の奴隷となった。




夏休みが終わり新学期が始まった頃、クラスの中はそれぞれの休み中の思い出を語る声で賑わっていた。
どこのクラスにも休みの間にハメを外す奴が居るものだ。
ピアスの穴を開ける奴。髪を明るく染める奴。
そんな奴がちらほら見受けられ、休み前に比べて教室の中は違う顔を見せていた。
臨也がその中でもひときわ明るい髪の色をした奴に声をかけた。
「その髪、さすがにヤバいんじゃないの」
一応、校則で染髪は禁止されている。クラス委員長という立場から、忠告しないわけにはいかなかったのだろう。
「うっせえな、触んじゃねえよ!」
色鮮やかな髪をぐしゃりと撫で、軽く声をかけた臨也の腕を払いのけると、そいつは臨也の腹を思いきり蹴り飛ばした。
バランスを崩して吹っ飛んだ臨也は、周囲の机と共にガタガタという音を立てて床に転げた。
そいつは以前から、成績も優秀であればスポーツも万能な優等生タイプの臨也がきっと気に入らなかったんだろう。
そんな奴に注意をされ、逆上した。いわゆる逆ギレ、というやつだ。

俺は席から立ち上がり、未だに蹲ったままの臨也に手を貸そうとした。
臨也はきっと、静かに立ち上がり苦笑しながら自分の席に戻る。そう思ったからだ。
だが、違った。いや、いつもの臨也ならきっとそうしただろう。でも、この時すでに臨也は臨也では無くなってしまっていた。
すっと立ち上がった臨也は自分を蹴り飛ばした奴を睨みつけると、勢いをつけて飛び蹴りをかました。
見事に腹に吸い込まれた臨也の蹴りをマトモに受けたそいつは後ろに吹っ飛び、気絶した。
臨也はポケットからナイフを取り出すと、そいつの髪を掴みザクザクと切り落とした。
周囲で悲鳴が上がる。
ひとりの王様が誕生した瞬間だった。


弱い者は強い者に媚びる。
それはいつの時代も変わらない、人間の性質であり変わりようもない図式だ。
不良をぶちのめした臨也はその日からクラスで絶対的な権力を握り、奴の周りには何人もの取り巻きが出来た。
俺もその一人だった。
臨也の力に怯えていたわけじゃない。
ただ、楽しかったあの頃の思い出に囚われ、臨也の側を離れることが出来なかったんだ。


いじめは日常茶飯事のように行われた。
始業式の日、臨也を蹴り飛ばしたあの不良は真っ先にターゲットにされた。
今となっては思い出すのも嫌になるような陰湿ないじめを執拗に受けたそいつは、とうとう不登校になった。
クラスの事情を何も知らない空気の読めない教師が、なぜこんな事になってしまったのか考えましょう、なんてHRを開いたときも誰も何も言わなかった。
奴が何故不登校になったのか。みんなその理由を知っていたからだ。そしてそれを喋った奴が次のターゲットになることも分かっていたからだ。


日に日にエスカレートしていく行動に、ついに堪え切れなくなったらしい一人の女子が、臨也に楯突いたことがあった。
あんた何様なのよ、こんなことしてクラスの皆も迷惑してるわよ、いい加減にしてよ!
クラス中に響き渡る声でそう叫んだその女子は、翌日から学校に来なくなった。
その日の帰り道、複数の男たちに囲まれレイプされたらしいという噂を聞いたのは、数日後のことだった。
俺はその男たちに彼女を襲うよう指示した人物が誰なのか、すぐに察しがついた。
きっと、彼女にもそれはすぐに分かったんだろう。だから、彼女は学校に来なくなった。


「もういい加減アイツと付き合うの止めたほうがいいんじゃないの?」
早々と見切りをつけて臨也から距離を取っていた新羅に、そう忠告されたことがあった。
縁を切ったほうがいい。そんなことは俺が一番よく分かっていた。
でもそうしなかったのは、楽しかったあの頃の思い出があるから。
何より、自分がくっついていればそのうちあの頃の臨也に、もとの臨也に戻ってくれるんじゃないか。
そんな僅かな希望があったからだった。
でも今は違う。今、俺が臨也から離れればきっと次の標的にされるのは俺だ。
絶対的な恐怖が俺を支配して、俺は臨也の奴隷に成り下がったままでいるしか道が無かったのだ。








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