※親子パロ




必ずご両親に見せて下さいね
そんな台詞と共に配られたプリントに書かれた「授業参観のお知らせ」という題字を眺めて、臨也は眉を寄せた。
プリントを握り数秒にらめっこをした後、自分には関係が無い行事だという結論に至り早々とプリントをしまおうとした所で、前の席の新羅が後ろを振り返り話しかけてきた。


「今回は臨也のところ、お父さん来れそうなの?」
「さあ、どうかな…いま丁度締め切り前で忙しいみたいだし」


まあ無理だろう。
脳内で先程その結論に至ったばかりなので、もう臨也の中にこのプリントを父に見せる気など少しも残っていなかった。
休みが取りにくいどころか年中無休のような職業だし、というかそもそも高校生にもなって授業参観なんて歳でも無いし。
こういった学校行事にほとんど参加することの無い父に、少し寂しさを覚えたことが無いと言えば嘘になる。
その度に自分を上手く納得させる理由を考えることばかり臨也は上手くなっていくのだった。


「あ、わたし折原くんのお父さん見たことある!すっごい若くてカッコイイんだよねー!」
「えっ、それ本当!?」
「きゃー!見てみたーい!」


臨也と新羅の会話を耳聡く聞きつけた、隣りの席の女子が話に寄ってくるとその周囲の席の女子達から黄色い歓声が上がる。
本当、女子ってこういう話好きだよな。
どこか他人事のようにボンヤリと考えながら臨也は曖昧な笑みを浮かべながら適当に相槌を打つ。
自分の父の話題であるのに既に蚊帳の外で繰り広げられる女子の会話に少し苦笑しつつ、臨也は授業参観のプリントを鞄の奥へと押し込めた。





「ただいまー」


自宅へと帰り着き、一応声をかけてみるものの返事は無い。
既に夕方であるというのに部屋の電気は付いておらず、窓から差し込む夕陽で壁が赤く染まっている。
不審に思いつつ、書斎を覗いてみたがそこには人の気配は無い。

この時間に書斎に居ないとするときっと寝室だろう。
そう目星をつけて寝室の扉を開くと、ベッドの上にこんもりと膨らみが出来ており、臨也は自分の予想が的中したことを悟った。
頭まで被られた布団から明るい金色が少しだけ覗いており、臨也は愛おしそうにその髪を撫でる。
部屋の電気が付いていなかったことから考えて、きっと昼前からずっと眠っているんだろう。
12時に寝たと考えても既に4時間は経っている。
最近、徹夜続きでろくに眠ってなかったみたいだし疲れが溜まってるんだろうなあ…。


「シズちゃん」
「ん…」


控えめに呼びかけると、布団の中がもぞもぞと動いたかと思うと、その中からひょこりと眠たそうな顔が覗いた。


「いざ、や…?」
「起こしちゃってゴメン。シズちゃん夕飯どうする?食べるなら何か作るけど」
「ん、食う…」


まだ開ききっていない眼を眠たそうにごしごしと擦りながら、欠伸を噛み殺す静雄を眺めながら臨也はくすりと笑みを漏らした。

静雄は臨也の本当の父親ではない。彼は臨也の実母の弟にあたる。
臨也の両親は不幸にも交通事故で既に他界しており、まだ幼かった彼を当時20歳そこそこだった静雄が引き取り、それ以来ずっと2人で暮らしているのだ。
ただ一緒に暮らしているというだけで養子縁組などは組んでいないので、名字もお互い以前のままだ。
当時は小説家としてデビューしたばかりでジリ貧生活だった静雄の仕事も、10年経った今ではそこそこ軌道に乗ってきており、ベストセラー作家とまではいかないにしても何とか食べていける程度の収入は得られるようになっている。


「何か食べたいものある?リクエストあったら聞くよ」
「徹夜明けで頭いてえから…何か軽いもの…」
「じゃ、お粥でも作ろうか」


静雄がこくりと頷くのを見てから臨也はキッチンへと向かった。
出来るまで寝てていいよと声をかけたのだが、もう目が覚めてしまったからと静雄も後ろから付いてきた。


「そういえば、今日うちの女子がシズちゃんのこと話してたよ」
「は?何をだよ」
「折原くんのお父さん、若くて格好いいよねーって」
「俺、お前みたいなでかい子供がいるような歳に見えんのか…?」
「まあ若いって言われてるんだから、いいじゃない」


慣れた手つきで包丁を操りながら学校での出来事を話して聞かせる。もちろんその話題に至った経緯は口にはしなかった。
ちょっとショックだ…と肩を落とす静雄に適当な慰めを入れつつ、臨也はてきぱきと食事の準備をしていく。
土鍋の中身をレンゲで少し掬い、数回息を吹きかけて冷ましたあと、それを静雄の口元へと運んだ。


「はい、味見」
「…ん、美味い」
「そ、良かった。出来たよ」


ガスコンロの火を止めて、出来あがった粥を土鍋ごとテーブルへと運ぶ。
取り皿とレンゲを渡すと、静雄が臨也の分も一緒によそい始めた。


「シズちゃん、麦茶でいい?」
「ああ。…なあ、臨也」
「なに?」
「お前、いい加減その呼び方やめろよ。仮にも父親に向かってシズちゃんは無いだろ」
「はいはい」


さっきは俺ぐらいの子供が居るように見えんのかって落ち込んでたくせになあ。
いきなり父親面を始める静雄におざなりな返事を返し、臨也はコップに麦茶を注ぐ。
それに、今更シズちゃんを父親としてなんか見れないよ。こんなに、こんなに…好きなのに。
胸に秘めた想いを悟られることのないよう、臨也は顔に笑顔を貼り付けると、盛られた自分の分の粥を突つく。


「シズちゃん、いま仕事そんなに忙しいの?」


レンゲを口に運びながらそう尋ねると、言った側からお前は…とでも言いたげな微妙な表情をされたが、臨也がそれに気付かないふりをすると静雄も気にしないことにしたらしく、口内で租借したものをごくりと飲み込んでから口を開いた。


「締め切り前だしな…でもま、そろそろ目処はたってるし大丈夫だろ」
「そっか。ならいいけど」
「授業参観までには終わらせるから、心配すんな」
「えっ」


何で知ってるの?そう言いたそうに驚いた顔をした臨也を見て、静雄はニヤリと笑った。
掲げられた右手には臨也が鞄に押し込んだはずの、しわくちゃになったプリントが握られていた。


「鞄の中に入ってたぞ。こういう大事なプリントはちゃんと見せろよ」
「でもシズちゃん仕事…」
「だから、ちゃんと終わらせるって。お前のクラスの女子がきゃーきゃー騒ぐぐらいカッコイイ格好して行ってやるから期待して待ってろ」


プリントを机の上に伏せ、再び食事へと戻った静雄の顔を眺めながら、臨也は自分の胸の内にどうしようもない感情が押し寄せてくるのを悟った。
嬉しさと愛おしさがごちゃ混ぜになったような、そんな感覚。胸が詰まりそうで息苦しい。
込み上げてきそうになる涙を必死に押し戻すと無理矢理口角を吊り上げて笑顔を作った。


「でもシズちゃん、引きこもりだから服のセンス悪いしなあ」
「んだと、テメー」


ああ、本当にこの人には敵わない。








捏造もいいとこですみません。
臨也が普通に良く出来た息子になってしまい誰おま状態である。



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