クラスメイト達がグラウンドを走り回るなか、とろとろと歩きながら欠伸を噛み殺すでもなく豪快に大口を開けているとさすがに体育教師の怒声が響いてきた。が、俺はそちらをちらりと一瞥するだけで態度を改めようとはしない。
体調が悪いので休ませてください、という俺の申し出を嘘をつくなと一蹴したのはそちらだろう。
まあ、確かに仮病なんだけどね。

決して運動神経が鈍いわけじゃ無いけど、スポーツは基本的に見るのもやるのも好きじゃない。
何で体育の授業なんて存在するんだろう。
チームワークを身につけるため?協調性を養うため?くだらないなあ、本当に。
この暑いなか、ひとつのボールを追いかけ回して無駄に汗を流すこの行為に意味なんて見出せない。
コートの中を歩くのも面倒になって、とうとう立ち止まってしまうと、後ろからパシンと頭を軽く叩かれた。


「ちょっとくらい真面目にやれよ」
「だあって、しんどいじゃん。よくやれるよね、ドタチン」
「お前なあ…」


はあ、とドタチンが溜息をつくと同時についに見かねた体育教師に気力を失くした声で、やる気が無いならコートから出ろ、と言われたので俺は遠慮することなくグラウンドに引かれた白線の外へと飛び出す。
気分が優れないので保健室で休んできてもいいですかあ?とついでに尋ねると教師はすっかり諦めた様子で、好きにしろとひらひらと手を振った。


(…あ)


これ幸いとばかりに浮かれた足取りで保健室への道のりを歩き出した俺の目に、見慣れた2人組の姿が飛びこんできた。
新羅とシズちゃんだ。
あちらのクラスも体育の授業だったようで、2人ともジャージ姿のままで水道の前に立っている。
勢いよく捻られた蛇口の下に頭を差し入れ豪快に水を被り、ぷるぷると髪を振り水を飛ばすシズちゃんは何だか犬のようだと思った。どうやら拭くためのタオルは持っていなかったらしい。
その隣では新羅が、ちょっと止めてよ静雄つめたっ!冷たい!と悲鳴を上げている。

そんな光景をぼんやりと眺めながら、俺の胸の中に何かどんよりとした気持ちが立ちこめていくのが分かった。
何だろう、すごくもやもやする。
喉の奥に突き刺さったまま取れない小骨のような、何かすっきりとしない感触がどろりと纏わりつく。


「お、あの2人、いつも一緒にいるな」


ひょいと背後から顔を出したドタチンに、たった今まで俺自身思っていたことをアッサリと口に出されて何とも言えない苛立ちが募り、俺は不機嫌を隠そうともせず隣にある顔を睨みつけた。


「何だよ?」
「別に。ドタチン、試合は」
「さっき終わったとこだよ。今は休憩中」
「ふーん」


生返事を返してもう一度2人のほうへと視線を戻すと、シズちゃんが体操服の襟を引っ張って顔を拭っているところだった。
持ちあがった服の裾から覗く、うっすらと割れた腹筋にくらりと目眩がした。
見かねた新羅がタオルを差し出し、シズちゃんが素直にそれを受け取ったことで、先程までさらけ出されていた腹筋は再び体操服の裏へと姿を隠す。
新羅め余計なことしやがって、という悪態が思わず頭の中に浮かぶあたり俺ももうどうしようもない。


「ドタチン、そろそろ次の試合始まるんじゃないの」
「ああ、そうか戻んねえとな。お前は?」
「サボリ」


ちゃんと先生に許可は取ってあるしね。
ひらりと手を振ってそう言うと背後でドタチンの呆れたような溜息が聞こえたけど、構うもんか。
グラウンドへと向かっていくドタチンの背中をちらりと見送ったあと、俺は真っ直ぐに未だに水道で戯れている2人の元へと歩き始めた。
俺に気付いた新羅が二次被害を避けるために3歩下がるのと、シズちゃんが先程の穏やかな表情から一変、その眉間に深い深い皺を刻み込むまで、あと数秒。










かまってちゃん臨也


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