彼の声が好きだ。

心地よく響く少し高めの優しい声。
その声で、彼に名前を呼ばれるのが好きだ。
優しく、時には怒ったように、嬉しそうに、時には呆れたように、様々に変わる声色で、名前を呼ばれるのが好きだ。






「静雄」


取り立て業を終えて事務所に戻ったあと、パソコンに向かい何やら事務作業を始めた彼を少し離れた位置に置いてある来客用のソファで、大人しく待つのはいつも俺の役目だ。
仕事を終えたらしい彼が優しく俺の名を呼ぶ。
俺の目はとっくに覚めていたが、ソファに寝ころび目を閉じたまま寝たフリを続けた。


「静雄。おーい、静雄ー」


先程よりも近い場所で声がしたかと思うと、肩を揺さぶられ彼が思いのほか近くに居たことに気付く。

もっと名前を呼んでほしい。
その声で、もっと俺の名前を紡いでほしい。
俺は瞼を固く閉じたまま辛抱強く眠っているフリ。


「…さっさと起きねえと、取って食っちまうぞ」


髪をサラリと撫でられたかと思うと、耳元で低い声音で囁かれたその台詞に、真っ赤になってしまった俺の耳を見て「やっぱり狸寝入りだったか」と彼は笑った。









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