池袋最強の喧嘩人形。 そんな物騒な通り名を持つ平和島静雄の顔をマジマジと見つめる事が出来るのは、きっと俺を含め数えるほどしか居ないだろう。 だから殆どの奴は気付いていない。 静雄の容姿が実は美形と言っても何ら差し支えないほどに整っているということを。 色の濃いサングラスの裏に隠された素顔はいっそ嫌味なほどに端正だ。 さすがアイドルの弟を持つだけのことはある、なんて本人に言えば微妙な顔をされるだろうから言わないけれど。 「…あの、何スか」 仕事の合間の昼休憩。 馴染みのファーストフード店で、もふもふとハンバーガーを頬張る静雄の顔をホットコーヒーを飲みながら見つめる俺の視線にとうとう堪え切れなくなったのか、遠慮がちに口を開く後輩。 「いーや、別に何も」 そう言いつつも静雄の顔を見つめる事は止めない。 そうすると静雄は何か言いたそうにもごもごと口を動かしたが、結局何も言わずに俯いて再びハンバーガーを頬張り出した。 時折ちらちらと俺のほうを見て、目が合うと困ったように視線を泳がせる。 (俺じゃなかったら、とっくに殴られてるな) これは決して自惚れでも自意識過剰でもない。 現に俺は何らかの些細なきっかけで静雄の逆鱗に触れ、半殺しにされた奴らをゴマンと見てきた。 なのに今現在進行形で静雄を困らせている俺が、殴られもしないで文句さえも言われないのは、ただ一重にそれが俺だからだ。 あ、これやっぱ自惚れかも。 「…可愛いなあ」 テーブルに片肘をついて、目の前で居心地が悪そうにもぞもぞとしている静雄を眺めながら、ポツリと一言。 俺の小さな呟きは、決して静かとは言えない店内でもバッチリ静雄の耳に届いたらしい。 みるみるうちに静雄の顔は耳まで真っ赤になり、困ったような泣きそうな顔をして、より一層俯いた。 池袋最強に、こんな顔をさせる事が出来るのは俺だけの特権だ。 |