「シズちゃん、おはよう」
「…おう」


眠そうに欠伸を噛み殺しながらキッチンに立ち朝食の準備をしている背中に声をかけると、愛想の欠片も無いぶっきらぼうな返事が返ってきた。
にこやかに挨拶を返してくれとは言わないが、せめて少しくらい此方を見てくれたっていいのに。
そんな女々しい考えが一瞬頭をよぎって、そんな自分が堪らなく嫌になった。
彼と一緒に暮らすようになって、今まで自分自身でも知らなかった意外と人間らしい自分の一面を思い知らされてばかりだ。
些細なことで悲しんだり喜んだり嫉妬したり羨んだり。今までそうしてめまぐるしく表情を変える人間達を傍観者気どりで俯瞰していた俺が、今度は自分自身がそんな醜態を晒しているのだから、とんだお笑い草だ。
折原臨也も落ちぶれたもんだなあ。
そう思いはするものの、そのことを嘆いたりはしない。むしろそれは喜ばしいことなのだ。


「ねえ、いい加減一緒にしない?寝室」
「…なんでだよ」


忙しなく動く背中に声をかけると、返ってきた声には明らかに不満が含まれていた。
必ず寝室を別々にすること。
それは、俺達が一緒に暮らす前にシズちゃんが唯一持ち出してきた条件だった。
その理由を彼は語ろうとしなかったが、目星は容易に付く。
眠りに落ちて意識が無く力が充分に制御できない状況で、万が一俺に怪我でもさせてしまわないように。恐らくそんなところだろうと思う。

だがそんなこと俺には何の関係も無い。
折角一緒に暮らしているというのに、そんなくだらない理由で愛しい人の側に居る時間が削られるなんて実に嘆かわしい。
怪我が怖くて君みたいな奴と恋愛が出来るか。俺はどれだけ傷ついても構わないから一秒でも多く君の側に居たいんだ。
そう思うものの、さすがにそんな臭い台詞は自分のガラでは無い気がする。


「だって寝室が一緒だったら、毎日気を失うまでヤりまくれるよ」


冗談めかしてそう言うと、俺の顔面めがけてフライパンが飛んできた。



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