冬のコタツというものは魔力を秘めている。
一度足を踏み入れてしまったが最後、その何とも言い難い心地良さで人々を包み込んで離さない、魔性の機器である。

そしてその効果は、俺達にだって例外じゃない。
食事を摂った後、リビングに置いてあるこのコタツに移動してから、俺も臨也もトイレに立つ時以外はこの暖かな場所から抜け出すことが出来ずにいる。正直なところ、トイレに行くことさえ億劫なくらいだ。
それは臨也も同じようで、確かコイツは先程「夕飯を食べ終わって少し休んだらやり残した仕事をする」と言っていた気がするが、このコタツに入ってから早数時間、未だパソコンに向かう気配すら見せない。それどころか呑気にミカンを剥き始めている始末だ。
まあ臨也はいつも考えの読めないお偉いさんや強面のヤクザ達といった神経をすり減らしそうな人間を相手に危険で怪しい仕事をしている訳だし、俺も俺で池袋の街で暴力に明け暮れて自販機だの標識だのを振り回す毎日を送っているわけで。たまには、こんな穏やかに過ぎる時間があってもいいのかもしれない。
コタツの暖かさに包まれた身体は、徐々に心地良い眠気を誘ってくる。とろとろと自然に重くなってくる瞼を引き止めたのは、足の裏に感じた違和感だった。


「……あ…?」


向かい側に座っている臨也が、俺の足の裏を、同じく自らの足の指先で何やらなぞっている。最初はスキンシップの一環で、ただじゃれついてきているだけなのだと思った。だが、どうやら違うらしい。明確な意図を持って動き回る臨也の指先は、ただ無闇に動き回っているわけでは無く、何やら言葉を紡いでいるようなのだ。


(ガキの頃によくやる、背中に書いた文字を当てるアレか…)


そういえば子供の頃に弟とそういった遊びをした記憶がある。
俺がようやくその意図に気付いたことを勘付いたらしい臨也は、書きかけていた文字を途中で止め、もう一度最初から書き始めた。
どうせ、暇だ。コイツのくだらない遊びに付き合ってやってもいいか、と俺は自らの足の裏をキャンバスにして臨也が描く文字に神経を集中させる。
一文字目は「た」。いや、あとから濁点が付け足されたので、「だ」か。二文字目は簡単だ、「い」。そして三文字目………。


「………」


臨也はまだ全ての言葉を書き終えてはいない。だが、もう気づいてしまった。コイツが一体俺に何を伝えようとしているのかを。
仄かに赤くなってしまった顔は、コタツに入っているせいか、それとも。何も言わずにニヤニヤと顔を歪めている臨也に、チッと舌を打つと絡められた臨也の指を振り払って足を引っこめた。


「…そういうことは、ちゃんと言葉で言えよ」


そう言ったのは、至極分かりにくいやり方でそんなことを伝えようとした臨也の回りくどい方法に腹が立ったからだ。別に、そんな大事なことは間接的にじゃなくちゃんと言葉で伝えてほしい、なんて乙女チックな思考を持ち合わせているからじゃない。断じて違う。
そうすると臨也はヘラヘラと笑ったまま、伝え損ねた言葉をもう一度、今度はきちんと声に出して口にするのだ。


「大好きだよ、シズちゃん」



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