全ての作業を終えた後、また静雄くんの自転車で帰路を辿り、最初に出会った公園まで戻ってきた頃にはもう深夜の2時を回っていた。
そのまま其処で別れ、自宅へと帰る。
とてつもない疲労感で体はもうボロボロだった。
ベッドへと倒れ込み、まだ色濃く残るむせ返るような血の臭いのなか、眠りについた。

泥のように眠り続け、目を覚ました頃にはもう昼過ぎだった。
窓から洩れる差すような陽射しが目に痛い。
携帯を見ると、静雄くんから学校に来ていない俺を心配する内容のメールが届いていたが、返信はしなかった。

汗で張りついたTシャツが気持ち悪い。
立ちあがり、ベッドから抜け出し大きく伸びをする。固まった骨がバキバキと音を立てた。
窓際に立ち、眩しい陽射しに目を細めながら外を眺めると、遠くにぼんやりと黒い人影が見えた。
それが俺のアパートへと歩いてくるスーツ姿の2人組みの男だということに気付いて、自嘲気味の笑みが零れる。
何だ、以外に早かったな。

ゆっくりと瞳を閉じると、瞼の裏に浮かぶのは静雄くんのことばかりだった。
決意を秘めた眼差し、淋しそうな笑顔、柔らかかった唇。
これはいわゆる吊り橋効果というものかもしれない。
死体隠蔽という重罪を2人でやってのけたことによる一種の思い込み。
そこで生まれた奇妙な連帯感を俺は恋だと勘違いしているだけかもしれない。
だが、それでも良かった。そんなことは、どうでも。
俺に人間としての感情を思い出させてくれたのは間違いなく彼だ。それだけは確かだ。

そんな彼を、巻きこむわけにはいかない。




本当は気付いていた。
ゴミ袋を担いで山の中へと足を踏み入れたとき、丁度犬の散歩をしていたらしい若い女に姿を見られていたことを。
山の中で埋め場所を探し彷徨い歩いていたとき、その女が後ろからこっそり付いてきていたことも。
死体を埋めている最中に、背後から痛いほど無遠慮な視線を感じていたことも。
全ての作業を終える間に居なくなっていたその女が、すぐにでも警察に通報するだろうことも。


気付いていたからこそ、俺はその女から死角になる位置に静雄くんを立たせた。
日射病にならないようになんて適当な理由をつけて、顔を見られないように静雄くんが着ていたパーカーのフードを被るように進言した。
わざとその女が潜んでいるだろう方を振り向き、俺の顔を見せつけた。
俺だ。殺人者は俺だ。俺ひとりだ。彼は、何も悪くない。

その甲斐あってか、ちゃんと警察の目は俺に向いたらしい。
あとは、静雄くんが疑われないことを祈るばかりだが、俺と静雄くんはクラスでも仲が良い訳ではなかったし、死体隠蔽の共犯者が居ることがバレたとしても捜査の目が静雄くんに向くことは恐らく無いだろう。
それでいい。それで、いい。


ひとつ心残りがあるとしたら、やはり。
俺は昨日の自分の台詞を思い出す。

「もっと早く静雄くんと出会えていれば、こんなことにはならなかったかもしれない」

なんて。それこそ今更だけど。



狭い部屋に、コンコンとノックの音が鳴り響いた。










BGM:BUMP OF CHICKEN



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