『拝啓 平和島静雄様

突然このようなお手紙を差し上げます無礼をお許しください。
貴方にお伝えしたいことがございまして、今回筆を取った次第でございます。
私は、東京郊外で小さな家具屋を営んでいる者です。
家具屋といいましても、ごく一般の家具屋とは違います。
お客様からご依頼頂いた通りにお望み通りの家具をお造りする完全オーダーメイドの家具屋なのでございます。
完全オーダーメイドですから、複数のお客様から同時進行でご依頼を受けることが出来ません。
なので毎月の収入も限られておりまして、ひとえに繁盛しているとは言い難い商売でございますが、商品をお渡しした時のお客様の喜ばれる顔を拝見するのが、私としましても何よりの楽しみなのでございます。

さて、実は先月、弊店のほうへ一風変わったご依頼を頂きました。
と言いますのも、なんと「自分を椅子にして欲しい」と仰るお客様が来られたのです。
「自分を椅子に」というのは少し語弊がありますが、つまり依頼主様ご本人が中にスッポリ入ってしまえるような椅子を作って欲しい、とのことだったのです。
そのようなご依頼を頂いたのは私としましても初めてのことでしたので、驚くと共に若干の戸惑いも感じました。
ですが、お客様が望む商品を望まれた通りに作るのが私の仕事です。
そのご依頼を頂いた時、丁度先日まで請け負っていたご依頼の品物が出来あがったところでしたので、私はその風変わりなご注文をお受けすることに致しました。
ですが人間1人がまるまる中に入ってしまえる椅子なんて、なにしろ私も作ったことがございません。
「多少」とは言い難いほどの不安はございましたが、私もプロですので依頼をお受けしたからにはお客様に御満足頂けるものをお作りしなければなりません。

私は依頼主様の身長・座高・肩幅・ウエスト・手足の長さに至るまで全て1ミリの誤差も無いようにきっちりと計測致しました。
そして中に人が入っても大丈夫なほど丈夫な木材を買い寄せました。
思考錯誤を何度も繰り返しまして、製作には丸1ヶ月ほどかかりました。
ですがそうして出来あがった椅子は、自画自賛になってしまいますが私としましても満足のいく仕上がりのものになりました。
勿論、依頼主様も大層満足したご様子でお喜びになっておられました。
中に人間が入るのですから、椅子の中身は勿論空洞になっております。ですがそれを感じさせないようデザイン面も工夫致しましたので、何も知らない人から見たらまさか中に人間が入れる仕様になっているなどとは夢にも思わないはずです。
中に人が入られた際に息苦しさなど感じないよう、背もたれの側面に空気穴を設けておくことも忘れませんでした。
スペースには若干の余裕を持って作成致しましたが、やはり多少の圧迫感と窮屈さは免れないとは思います。
ですがもともと椅子の中に入ろうだなんて考えが無茶苦茶なのですから、多少の不便は我慢して頂く他ありません。
依頼主様もその辺りはきちんとご了承して下さっているようでした。

依頼主様が何故、「自分を椅子にして欲しい」などと奇抜なことを思い付いたのか、私には分かりません。
もともとそういった性癖をお持ちだったのか、それともどうしても自分の上に座ってほしい思い人でも居られるのか、はたまた家具に擬態して怪しまれることなく生活を見守りたいお方でも居られるのか。
これは私の想像にすぎず、本当の理由は分かりませんし依頼主様に伺ってもおりません。
私の仕事はあくまで依頼されたものをお作りすることのみで、その依頼に至るまでの経緯を突きとめることでは無いのですから。


ところで、数日前に貴方のもとへ大きな荷物が届いたと思います。
送り元は『○○屋』となっていたかと思いますが、何を隠そうその『○○屋』というのが私の店の名前なのでございます。
突然身に覚えの無い荷物が届いて、大層驚かれたことでしょう。事前に御連絡を差し上げることが出来ず申し訳ございませんでした。
ここまでの私の話をお読みになった後であれば、貴方は今ひとつの疑問を感じていることでしょう。
「完全オーダーメイドの家具屋に、依頼なんてした覚えがないぞ」と。
そうです。私は平和島静雄様、貴方からのご依頼はお受けしておりません。
貴方にお届け致しました商品は、他の方から「完成後、貴方の元へ届けるように」とのご依頼を頂いて作成致しましたものでございます。
依頼主様については申し訳ございませんが私のほうからお話することは出来ません。
顧客情報を守ることは此方としましても義務になっておりますので、何卒その点はご了承下さいますようお願い致します。
ですが、貴方ご自身も依頼主様についてある程度の見当は付いているのではないでしょうか?
ああ、それとその椅子に関しまして貴方のもとへ商品代金を請求するようなことはございませんのでご安心ください。
お代は既に依頼主様から頂いております。

では、長々と乱文を失礼致しました。
貴方が末永く私の傑作をご使用して下さることを願っております。』








少々丁寧すぎるような口調で書かれた手紙に書いてある内容は実に気味の悪いものだった。
仕事から帰ってきた後、ポストに投函されていたその見覚えの無い名前からの手紙を読んだ後、静雄はその場に呆然と立ち尽くした。
恐る恐る部屋の隅に目を遣ると、そこには数日前にいきなり自宅に届けられた大きな西洋風の椅子が鎮座している。

ぶらりと下げられた静雄の左手に握りしめられた携帯は、先程受信して内容を確認した旧友である新羅からのメール画面が開きっぱなしになっていた。

『1ヶ月くらい前から臨也が行方不明らしいんだけど、何か知らない?』

椅子の背もたれの側面に空いている不自然な穴から、荒い息遣いが聞こえてきた気がした。









言うまでもありませんが人間椅子パロです。



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