※ツイッターで盛り上がったバンドパロ
※臨也→ギター、静雄→ベース、門田→ドラム、新羅→キーボード、千影→ボーカル
※申し訳ないことに新羅がログアウトしてます





「千影、お前また週刊誌に撮られたろ」


とある歌番組の収録を控えた楽屋内、少し呆れた調子でかけられた門田の言葉と共に千影の頭上からバサリと雑誌が降ってきた。
千影が座るソファの前のテーブルに着地した週刊誌の見開きページには、今CMやドラマ等で人気沸騰中の若手アイドルと腕を組んで歩く千影の姿がでかでかと載せられている。
それを見て、千影はまるで悪びれる素振りも無く、そういえばそんなこともあったなあとでも言わんばかりに「ああ」と一言だけ言葉を発した。
そのあっけらかんとした調子に、門田は呆れを通り越して最早諫める気力も無くしてしまうのだった。


「お前なあ…遊ぶのは勝手だが、もうちょっと上手くやれよ」


このバンド内だけと言わず最早芸能界の中でも、千影はスキャンダル王だ。
次から次へとタレントや女優に手を出し、そしてそれをご丁寧に毎回パパラッチされて、「プレイボーイ・タラシ・スケコマシ」といった俗称を欲しいままにしている。
確か前回撮られた相手はグラビアアイドルだったか。艶めかしい肢体を千影に絡ませながらホテル街へと消えて行った2人の写真が、門田の脳裏に蘇る。


「でも確かこの子とは一緒にメシ食っただけだし、別にやましいことなんか何もねーよ」
「何があったかが問題じゃなくて、撮られることが問題なんだろーが」
「固い事言うなよ。今時、恋愛禁止の古臭いアイドルグループなんか流行んないぜ。…それに」


広げられた週刊誌を閉じてテーブルの隅に追いやりながら、千影は離れた席で携帯を弄っている男にチラリと目を遣る。


「メンバー同士のスキャンダルがフライデーされるより、よっぽどマシだと思うけど?」


視線を投げかけられた男、臨也は千影の意味深な台詞が自分に向けられたものだと分かるや否や不快そうに眉を潜めた。
スライド式の黒い携帯を閉じると、視線だけを千影のほうへ向ける。


「何が言いたいんだい、六条くん?」
「昨日、静雄がアンタん家に泊まっただろ、折原さん」
「…だから、何?別に同じバンドのメンバーが家に泊まりにくることくらい何の問題も無いと思うけど」
「それがただのお泊まり会だったら、文句は無いさ。静雄が今日、目元真っ赤にして明らかに寝不足ですって顔してなけりゃ、な」


確かに静雄は昨晩、臨也の家に泊まった。それは紛れもない事実なのだからそれに関しては言い逃れは出来ない。
一瞬言葉が詰まるものの、挑発的に投げかけられた台詞に何か言い返そうと臨也が口を開きかけた途端、控室の扉がガチャリと開いた。


「…どうしたんだ?」


ジュースを買いに行っていた静雄がコーラの缶を右手に携えて、控室の何やら険悪な雰囲気に首を傾げる。
当の本人が帰ってきてしまえば、これ以上不毛な言い争いは出来ない。素っ気なく「別に」とだけ返すと、臨也は再び携帯に手を伸ばした。

先程も言ったが、静雄を自宅にお持ち帰りしたのは紛れもない事実だ。
それで本当に千影が思っているようなことが臨也達の間にあったのだとすれば、何も臨也だってこれほど不機嫌になったりはしない。
千影が静雄にそういった意味での好意を抱いていることなど分かっている。静雄に焼きもちを焼かせるために色々な女性に手を出していることも(結局その作戦はほとんど功を成していないが)。
だから臨也と静雄の間に本当にそういった事実があったとするならば、自分より幾らか年下の彼に「ほら、どんなもんだ」と大人げなく胸を張ることだって出来る。
だがそんな事実は無い。静雄は確かに臨也の家に泊まりに来た。だが本当にそれだけだった。無かったのだ、清々しいほどに何も。

今日の番組内での演奏に不安があったらしい静雄が、ベースの練習をしたいと言ってきたのは昨晩のことだ。
その申し出はあまりに突然で、スタジオを借りるにも予約が要るし、静雄が住んでいる安アパートでそんな騒音を掻き鳴らす訳には勿論いかない。
仕方が無いので防音設備が整っている臨也の家に招くことになったのだ。本当にそれだけだった。
臨也だって密かに好意を抱いている静雄が自宅に来ると言うので、確かに僅かばかりの期待をしなかった訳ではない。
だが何時になっても練習を止めようとしない静雄に痺れを切らして、臨也は先に寝てしまった。
目を覚ますと、疲れきってベースを抱えたまま寝てしまったらしい静雄が居た。
ただ、それだけのことだった。

勘ぐられるようなやましいことなど何も無い。寧ろあって欲しかったのに何も無い。涙が出るほどに健全で勤勉な一夜だったのだ。
それでもまだ何かを疑っているらしい千影に「今日は随分と寝不足みたいだな」と言葉をかけられ、「昨日は遅くまで頑張りすぎちまったからな」と、ばっちりしっかり誤解を招くような紛らわしい言い方で返答する静雄は、とことん鈍感で無神経で馬鹿な男だと、臨也は改めて思う。

やたら突っかかろうとする千影を、見かねた門田が止めに入ろうとしたところで、控室の扉が開き番組スタッフが顔を覗かせた。
そろそろ準備お願いします、という言葉を合図に、剣呑な空気を引き摺ったまま皆が腰を上げる。
未だに状況が飲み込みきれていないのは、この場で静雄たった一人だけだった。




そして迎えた本番。
先程の些細な諍いを気にしているのか、千影の歌声はいやに攻撃的で激しいものだった。
まるで思いの丈をぶつけるかのように歌詞に力を込める千影の迫力のある歌声に影響されているのか、観客席のファンもいつもよりノリがいいように感じる。
やけに飛ばしまくるな、と臨也が千影のほうを一瞥すると、ちょうど背後に視線を遣った千影と目が合ってしまった。
すると千影の目がまるで此方を挑発するかのように僅かにスッと細められた。心なしかその口元もまるで自分を馬鹿にするかのように吊り上げられた気がする。
こういう安っぽい挑発をするところが、ガキだっていうんだ。
そう思いはするものの、売られた喧嘩を易々と受け流すことが出来るほどやはり自分は大人ではないらしい。その起因となったものが自分の好きな男なのだから尚更引くわけにはいかない。
千影の歌声と挑発に応えるかのように、臨也はより一層激しくギターを掻き鳴らした。
勝手に演奏にアレンジを加え始めた臨也に溜め息を吐きつつ、それに合わせてドラムを叩く門田。我関せずといった調子でいつも通りの演奏をこなす新羅。そしてそんな千影と臨也の攻防に気付く由もなく必死に自分の演奏を続ける静雄。
ここまでメンバーの意思がバラバラだというのに、何故か演奏は絶妙なバランスを保ちつつ統率が取れているのだから、不思議なものだ。

いつもとは比べ物にならないほど全力投球をした結果、たった1曲の収録だったというのに、演奏後に伸し掛かる疲労は段違いだった。
滴る汗を拭うことすら煩わしく、ポタポタと床に染みを作りながら臨也が肩で息をしていると、千影がまた此方に視線を向けていた。その口元が数度ゆったりと動く。
客席からの歓声に掻き消され、何を言ったのか聞き取れなかったが唇の動きから、彼が何を言ったのか何となく分かってしまった。
『静雄は、渡さねえからな』
そう言った気がした。千影の睨め付けるような視線から、恐らくその予想は間違っていないと思う。

一体いつまでそんな勘違いをしているのか知らないが、渡すも何も静雄は臨也のものではない。
静雄にとっては千影も臨也もただのメンバーに過ぎず、2人の立ち位置は全くもって同じなのだ。
高校からの同級生ということもあり、千影に比べると臨也は幾分静雄に近い位置に居るのかもしれないが、だがそんな些細な距離感の違いに一体何の意味があるというのだろう。
なれるものなら、勿論臨也だって静雄の特別になりたい。だが、その思いは超が付くほど鈍感な静雄には易々と届かないし、所詮は叶わぬ願いなのだ。
不快感が募り、演奏後の高揚感も次第に冷めて気分が急降下していく最中、臨也はようやく一つの考えに気付いた。
そうだ。何故、こんな簡単なことに気付かなかったのだろう。
どうせ勘違いされているのなら、いっそ好都合だ。その勘違いを、真実にしてしまえばいいのだから。

客席の歓声と拍手が次第に小さくなっていく。ステージの照明が落とされるまで、残りあと数秒。
臨也は顔を上げると、数歩離れた位置に居る静雄へ歩み寄る。
昨晩の練習の成果があったのか、間違えず演奏を終えれたらしい静雄は安心しきったように穏やかな顔をしていた。
臨也が腕を伸ばし、静雄の胸倉を掴んだところでまるでタイミングを読んだかのようにステージの照明が落ちた。
照明が落ちる寸前、驚いたように目を見開いた千影の顔が視界の端に映った。
臨也は頭の中で「ざまあみろ」とそっと呟く。

触れた唇を離す直前、臨也は静雄のカサついたそれを舌でぺろりと舐め上げた。
確かに唇の調子なんていちいち気にする性格だとも思えないが、あまりにカサつきすぎていて触れ心地があまり良くないのが少し気になる。
今度リップクリームをプレゼントしてあげようか、なんてこの状況には不釣り合いな呑気な考えが頭をよぎる辺り、自分はなかなか神経が図太いのかもしれないと臨也は今更ながらに思った。

照明が落とされ暗闇に包まれたステージにぼんやりと浮かび上がる、不自然に重なった2人の影は観客の目にどう映ったのだろう。
先程の千影の挑発に応えるかのように、臨也の唇がゆっくりと動く。『シズちゃんは、渡さないよ』。
悔しそうに唇を噛む千影と、呆れかえったように頭を抱える門田と、苦笑いを浮かべる新羅。
相変わらず状況を理解出来ていないのは、ざわつく観客達と、顔を真っ赤にして固まってしまった静雄だけだった。









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