※ゲロ甘 窓から降り注ぐ、やわらかく暖かい陽射しで目が覚めた。 体を起こすと、隣りで一緒に眠っていたはずの恋人の姿は無い。 まだ覚醒しきっていない頭をゆるく振り、ぼやける視界をごしごしとこすって欠伸をひとつ。 食欲をそそられる匂いにつられてキッチンへと足を向けると、そこにはエプロンを身につけて朝食の準備をしているシズちゃんの姿。 俺が選んだシックな黒のエプロンは、細身のシズちゃんによく似合っている。 これは裸エプロン用ね、と一緒にプレゼントしたフリル付きのピンクのエプロンは未だに着てくれたことは無いけど、まあそれはいずれそのうち。 「シーズちゃん」 「っうわ」 後ろから抱きつくとシズちゃんは少し驚いたようにびくりと身を震わせて、此方を振り向くことなく危ねえだろ離しやがれ、と吐き捨てた。 ぶっきらぼうな物言いだけど、その言葉からは苛立ちも嫌悪も感じられなかったので、俺は気にすることなくシズちゃんの腰に回した腕により一層力を込めた。 「はーなーれーろ」 「やーだー」 ようやく此方を振り向いたシズちゃんが、へばりついている俺の頭をぐいぐいと押す。 負けるもんか、と更に力を込める俺にシズちゃんは呆れたように溜息をついた。 「いっぱい引っ付いてないと、補給出来ないからさ」 「補給って何がだよ」 「俺、今シズちゃん不足だからー」 「何だそれ」 意味分かんねえ、と笑うシズちゃんの笑顔につられて俺も笑った。 結局俺をひっつけたまま朝食の準備を終えたシズちゃんは、ダイニングへと出来あがった食事を運ぶと俺を席に着かせた。 今日のメニューはトーストとハムエッグ、そしてサラダにコーヒー。 もともとシズちゃんは朝は和食派だったらしいけど、俺が朝はパン派だということを話すとそれ以来俺に合わせてくれている。 実のところ、別に俺はシズちゃんが作ってくれたものなら、米だろうがパンだろうがどちらでもいいんだけど、そこは俺を想ってくれる恋人の愛を甘んじて受け入れておくことにしよう。 いただきます、と手を合わせたところで寝室のほうから、にーという鳴き声が聞こえた。 そして、此方にてとてとと歩いてくる子猫の姿。 こいつは俺とシズちゃんのペットで、名前は“猫”。 一応名誉のために言っておくけど、俺のネーミングセンスじゃない。 こいつを飼い始めた頃、名前はどうしようかと悩む俺を余所に、シズちゃんが猫猫と呼び過ぎたせいで、いつのまにやら定着してしまっていたのだ。 最初のほうこそ、俺なんかが触ったら壊しちまいそうだ、と猫との接触を怖がっていたシズちゃんも今となっては、頭を撫でたり抱き上げたりだってお手のものだ。 「よしよし、お前も腹減ったよな」 「にー」 こっちおいで、とキャットフードを取りに再びキッチンへと向かったシズちゃんの後ろを、猫が短い足を必死に動かしてついていく。 そんな微笑ましい光景に、俺の口元が自然と弧を描いた。 こんなことで幸せを感じるなんて、昔の俺からだと想像も出来ないよなあ…。 それに、まさか自分がこんなに穏やかに微笑める日が来るなんて思いもしなかった。 「シズちゃん」 「ん?」 キャットフードを手にダイニングへと戻ってきたシズちゃんに、にこりと笑いかけて一言。 「好きだよ」と告げると、シズちゃんは一瞬目を丸くしたあと、ふわりと笑って「知ってる」と答えた。 「…とまあ、こんな風に幸せな家庭を君と築きたいんだけど、どうかなシズちゃん」 「俺は猫より犬派だから却下」 |
突っ込みどころソコなんだ!? by新羅 ツッコミ役がいないのでボケっぱなし。 |