随分と陽が長くなったもんだ。 仕事帰り、アパートまでの道のりをのんびりと歩みながら沈みゆく夕陽を眺めそんなことを考える。 今日は珍しく仕事が早く終わり、帰路を辿る足も軽やかだ。 もともと回る件数が少なかったこともあるが、行く先々で変に口答えするうぜえ奴も居なければ支払いを拒否する面倒くせえ奴も居なかった為、回収がスムーズに進んだことが大半の要因だろう。 近頃は忙しい日々が続いていた為、仕事を終え自宅に帰り着く頃には辺りはもう真っ暗で、家に着くなり食うものも食わず簡単にシャワーを浴びてベッドへ倒れ込むことも珍しくなかった。 だから、今日みたいにまだ陽が明るい内に家に帰れるというのは正直嬉しくて堪らない。 時間はまだまだたっぷりある。家に帰ったら、何をしようか。 頭の中でこれからの予定を考えていると、年甲斐も無く心が躍った。 アパートへと辿り着き、鼻唄まじりに階段を昇りながらポケットから鍵を取り出すと、部屋の中へと入る。 壁際のスイッチへと手を伸ばし薄暗い部屋に明かりを灯すと、さてどうしたものかと頭を悩ませてみた。 こう時間が沢山あると逆にやりたいことが多過ぎて悩んでしまうんだな。 腰に手を当て、うんうんと唸ってみても流石に今から温泉旅行だとか海外旅行だとかそんな突拍子も無い予定を立てることも出来ないのだから、手近なことから済ませることにする。 「…飯、食うか」 とりあえず空腹を訴える胃を宥めることが最優先事項だと判断する。 ここ最近、外食だとかカップラーメンだとかで済ませることが多かったので滅多に使用する機会が無かった冷蔵庫の扉を数日ぶりに開いてみると、思った通り食材と言えるものが殆ど入っていなかった。 時間があるから久しぶりに自炊でも、と思ったのだが材料が無いとどうしようもない。 スーパーにでも買いに行くしかないか、と腰を上げたところで、コンコンと扉を叩く音が部屋の中に響いた。 こんな時間に誰だ? もともと友人と言える人物が極端に少ないからわざわざ部屋を訪れるような奴も殆ど居ない。しかもこんな時間に。 少し訝しみながら、扉を開いてみると、そこに居たのは―… 折原臨也 |