※大学生パロ
※ガチでゲイな静雄と臨也






ピピピと鳴り響くアラーム音で目が覚めた。
隣りで眠っていた彼も目が覚めたようで、ゴロリと寝返りを打った彼に1枚しか無い毛布を持っていかれてしまい肌を刺す冷たい空気に身を震わせる。
そのまま、またもスウスウと寝息を立て始めた彼に溜息を吐きつつ身体を起こす。


「起きなよ、シズちゃん。遅刻するよ」


肩に手をかけ、控えめに揺さぶるとうざったそうに手を振り払われた。


「…うるせえ…おれ今日は3限目からだからまだ時間あんだよ…」
「え、じゃあ何でこんな時間にアラームかけたの。まだ7時だよ」
「お前のためにかけてやったんだよ…お前1限からだろ…」


どうだ俺は優しい男だろう、と寝ぼけ眼でムニャムニャ言いながらニヘラと笑ったシズちゃんに少しばかり苛立って、その鼻を摘まんでやると息苦しいのか彼はパタパタと小さく手足をバタつかせた。
そのうち、そんな他愛ないじゃれ合いにも飽きてしまったのか、彼は再度うざったそうに俺の手を振り払った。
寝返りを打ち、背中を見せた彼から再び聞こえてきたスウスウという安らかな寝息に、俺は小さく溜め息を吐いた。


「…じゃあ俺、先出てるからね」


既に夢の世界の住人になっている彼にはきっと聞こえていないだろうと思いつつも、規則正しく上下するその背中に声をかける。案の定、反応は返ってこなかった。
そこらに脱ぎ散らかされた服を拾い集め身支度を整えると、ショルダーバッグを引っ掴んで部屋を出た。
例え俺とシズちゃんが選択している講義の時間が一緒だろうと、部屋を出るときは必ず時間をズラすことにしている。
だってここは普通の部屋じゃない、所謂ラブホテルだ。
こんな場所で致すことと言ったら一つしか無い。そんなことは今時小学生だって知っている。そのような場所から男2人が連れ添って出て来るなんて、さすがに誰かに見られでもしたら事だ。

そんな場所で夜を明かした俺とシズちゃんも、つまり昨晩はそういった行為をしていた訳で。
だからと言って俺達は好き合っている恋人同士なのかと問われると、そうじゃない。
俺達はただお互いの性欲を満たす為だけの関係、世間一般的に言わせれば恐らくセックスフレンドというやつなのだろう。
平均して約3日に1回ほどの頻度で行われるこの行為に、愛だの恋だのそんな面倒な感情は必要無い。
ただ撫でて触って勃たせて突っ込み突っ込まれ気持ちよくなれれば、それだけでいいのだ。
少なくともシズちゃんはそう思っているだろう。俺のことなんて溜まった性欲を処理する為の捌け口としか見ていないだろう。
だからこそ、絶対に悟られてはいけない。俺が彼に抱いているこの感情を、溢れかえるほどのこの想いを。彼に触れる度に込み上げる愛しさを、彼と身体を繋げる度に胸に充満する幸福を。
絶対に知られてはいけないのだ。知られたが最後、俺達のこの関係はきっと終わりを迎えてしまうだろうから。





初めてシズちゃんと出逢ったのは高校生の時だった。
友人に紹介された彼を一目見た瞬間、全身にビリリと電撃が駆け巡ったような気がした。
使い古された安直な言い方だが、本当にそう感じたのだ。
自然と熱を持つ顔も、五月蝿く撥ねる心臓の鼓動も、当時は訳が分からなかったその感情も今となっては全て理解出来る。
きっとあれが、一目惚れというものだったのだと。

俺は気づけばいつもシズちゃんを目で追っていた。授業中も休み時間も放課後も飽きることなく。
だからこそ気づいてしまった。それは彼が纏う雰囲気だとか、同性と異性を見るときの少しの視線の違いだとか、そんな些細なことだったように思うが、とにかく俺は気づいてしまったのだ。彼が、俺と同類だということに。
気付いてしまったら、もう俺は自分の感情と衝動を抑えることが出来なかった。
ノンケならまだしも同類だというのなら、俺にだって一縷の望みが無いとも限らない。
もしかしたら。そんな淡い期待を抱きながら俺は彼を誘って身体を繋げた。
俺もゲイなのだと暴露してしまえば彼はさほど抵抗もしなければ拒絶もしなかった。俺が求めるままに、彼は身体を開いた。彼が求めるままに、俺は彼を抱いた。
もしかしたら。もしかしたら。
そんな期待はいつの間にやら消え失せた。数え切れないほど何度も身体を繋げても、シズちゃんの目が俺に向くことは無かった。







「……あ」


講義を終え、自宅へと帰る道すがら。
見慣れた明るい金髪が視界に入り、声をかけようと少し早歩きになった足は次第に失速した。手でも降ろうかと上げかけた右手をソッと下ろす。
シズちゃんは1人じゃ無かった。その隣りに寄り添い、こんな天下の往来で恥じる様子もなく馴れ馴れしくその腰に手を回す男。
恐らく30代半ばぐらいだろうその男の顔は何度か見たことがある。シズちゃんからは俺と同じ程度のランク付けしかされていないだろう、ただのセフレだ。


「………」


胸の内に得体の知れぬ感情がドロリと湧き上がる。見たくも無いのに、その後2人がホテル街へと消えていくまで俺は彼らから目を離すことが出来なかった。
ドロドロと纏わりつくドス黒い感情を吐き出すかのように、込み上げてきた唾を路上に吐き捨てた。
だが俺の心のモヤは一向に晴れなかった。
これは嫉妬だ。
そう理解すると同時に、理解したからといってどうすることも出来ない感情の正体に吐き気がした。