「そういや、シズシズはバレンタインどうするの?」


仕事終わりに、何となく公園で煙草を吹かしていると偶然会った門田達御一行と適当に話を交わしている中で突然狩沢から振られた話題に、俺は目を丸くしてポカンと口を開けるしか無かった。
確かに今日は2月14日。世間的にバレンタインと言われる日であることは間違いないのだが。
チョコを貰う側の男であるはずの俺が、何個貰ったかといった類の質問ではなく、どうするのかというまるで用意する側の質問をされるのが理解出来ない。


「どうするって…別に、どうもしねえよ」
「えーっ、イザイザにあげないの?」
「何で俺があのノミ蟲野郎にチョコなんかやらなきゃなんねえんだ」
「だって、ネコ側の男の子のほうがチョコをあげるのはBL界のお約束だよ!?」
「ネコって何だよ」


俺は猫より犬派だ。
何故だか興奮した様子で力説する狩沢の台詞の中の聞き慣れぬ単語に疑問を返してみたが、ますますヒートアップしてBLがどうの同人がどうのと1人で盛り上がっている狩沢の耳には届いていないらしい。
マシンガントークを続ける狩沢とそれを宥めている遊馬崎は放置しておくことにして、一番話が通じそうな門田へと目を向けた。


「なあ、ネコって何」
「……物事には知らないほうが幸せなこともあるんだぞ、静雄」


まるで全てを悟りきったかのような目で遠くを見つめる門田に、尚もしつこく食い下がってみるとようやく観念した門田が、渋々先程の単語の意味を教えてくれた。
ネコというのは男同士のカップルにおいてセックスの時に女役をやる奴のことなのだ、と。
少し恥ずかしそうにしながら言い辛そうにポツリと呟かれた門田の言葉を、ふーん、と適当に聞き流しながら紫煙を吐き出した所で、俺はようやく先程の狩沢との会話の流れを思い出した。
つまり、チョコをあげる=ネコ=俺…ってことか?


「……っ、なっ…!」


ようやく話が繋がり全てを理解した俺の顔は真っ赤に染まる。指に挟んでいた吸いかけの煙草がポトリと地面に落ちた。
あのノミ蟲との関係を今更取り立てて隠そうとは思わないが、それでもそういった行為をするときどっちが上とか下とかそんな話は勿論誰にもしたことがない。つーか、するわけがない。
なのに、何で狩沢なんかがそんなこと知ってんだよ!カマかけられたならともかく、あの言い方はかなりの自信を持って紡がれた台詞だったように感じたのは俺の気のせいか?いや、どっらにしろ何で俺が下だと思われてんだよ!

真っ赤になって固まってしまった俺を、「シズシズの照れ顔キタコレ!シズデレシズデレ!」と最早何語なのかすら分からない言語を叫びながら写メで撮りまくる狩沢を止めることも出来ず、湧き上がる羞恥心でどうにかなりそうだ。
そのうち呆れた様子で門田が止めに入り、ようやく落ち着いた狩沢が携帯を弄りながら「でも、」と言葉を続ける。
恐らく撮った写メを保存したのだろう、ピロリンという間抜けな音が響いた。


「ネコがどうとかは関係なく、チョコはあげたほうが良いと思うよ?イザイザすっごく喜ぶと思うなー」