これこれの続き。





世の中には自分と似た人間が3人居ると言われている。
ドッペルゲンガーだとか言われるそれは、目撃したら死ぬとか良く無い事が起こるとか何だかんだと言われてはいるが結局はただの都市伝説。
69億人もの人間が存在する地球上で、自分と似た人間の1人や2人居ないほうがおかしいというものだ。

それはつい昨日までの俺の持論。
俺の興味の対象になるのはあくまで生きて存在する人間のみなので、くだらない怪談や都市伝説なんかにはさほど食指も動かない。
首なしライダーが当たり前のようにバイクで街を徘徊する時代だっていうのにそんなものに恐れを成したって、何の得になるものか。
だから俺は過去に数多く報告されているドッペルゲンガーの事例なんて殆ど知らないし、自分と同じ人間を見たという彼らがその後どうなったのかも知らない。
つまりは、俺の脳内記録のどのページを捲ってみたってこの不測の事態の対処法なんて何処にも載ってやしないのだ。







「どういうことか説明してもらおうか、臨也くんよぉ…」
「…それは俺のほうこそ聞きたいなあ」


公園で何やら意味の分からないことをのたまってばかりのシズちゃんのそっくりさんに、いきなりキスされたり局部をわし掴まれたりして涙目になっているところに、いかにも怒り沸騰中といった感じで電話をしてきたシズちゃんに現在の居所を簡潔に伝えると、ものの数分でやってきたシズちゃんにいきなり自販機を投げつけられ、つい先程のあの台詞。
最早慣れっことなってしまった自販機攻撃をひらりと避けて、俺の遥か後方でスクラップと化した可哀想な自販機の成れの果てを見つめる。
無傷の俺の姿に、少し安心したかのように「今度こそ本物のノミ蟲だ…」と小さく呟かれたシズちゃんの台詞から、彼の身に一体何が起こっていたのかは想像に難くない。

シズちゃんの腕にべったりと貼り付いている白いコートを着た男は、俺と全くウリ二つの顔をしていて、シズちゃんが怒りの電話をかけてきた辺りからある程度の予測はしていたものの、いざ実際目にしてみるとなかなかにショッキングな光景だ。


「こっちがシズちゃんだったから、もしかしたら俺のそっくりさんも居るのかなと思ってはいたけどさ…、そんなの腕にひっつけてて恥ずかしくないの、シズちゃん?ていうか寧ろ俺が恥ずかしいから止めてほしいんだけど、早急に」
「知るか!引き剥がしてもコイツが勝手にひっついてきやがんだよ!そもそも、テメエもそいつ何とかしろよ!」


そいつ、とシズちゃんが指を差したのは先程から俺に抱きついたままのシズちゃんのそっくりさんだ。


「どうにか出来るもんならしてるっての…ただでさえコイツが人目も憚らずキスとかしてくるから、腐女子共の荒ぶった書き込みでダラーズの掲示板が超荒れてるってのに…」
「あ?聞こえねえよ、デケェ声で喋れ」
「シズちゃんと仲良しこよしなんて反吐が出るって言ってんの」
「あぁ!?こっちこそ願い下げだクソノミ蟲!」


どうやら顔見知りだったらしいシズちゃんのそっくりさんと俺のそっくりさんは、べったりくっついていた俺達からいとも簡単に離れ、剣呑な雰囲気が漂う俺とシズちゃんの間で2人して空気も読まずにきゃっきゃとはしゃいでいる。
「久しぶりだね津軽、会えて良かったー!」「サイケも元気そうだな」「津軽もねー!」なんて仲良さげに会話を交わす己の分身達に何とも苦い気持ちが込み上げてくる。
本物の俺達はまともな会話すらままならないような関係だというのに。親しげにはしゃぎ合う2人を見て胸の内にどろりと溜まるこの気持ちは、嫉妬もしくは羨望だろうか。…そんな馬鹿なことがあって堪るか。


「とにかくテメェに話す気が無ぇなら、殺してでも口を割らせるしかねえな…!」
「死んだらそもそも喋れないでしょって突っ込みしたほうがいい?っていうか、何も知らないって言ってんじゃん」
「うるせえ!こういう意味分かんねえことは99%テメェの仕業だって相場が決まってんだよ!」
「…ほんっと話通じない。これだから嫌いなんだよね、シズちゃんのこと」


公園に置かれているベンチへと手を伸ばしたシズちゃんに対し、ポケットからナイフを取り出し応戦する。
シズちゃんが力を込めた箇所がバキリと悲痛な音を立てて陥没し、ベンチの背が歪な形にゆがむ。
血管の浮いたこめかみを歪め、今にも爆発してしまいそうなほどの怒りの表情で顔を染めているシズちゃんは、先程俺にふにゃふにゃ笑いながらへばり付いてきた奴と同じ顔をしているとは到底思えない。
顔の作りは全く同じだというのに、纏う雰囲気と表情だけで人間というものはこうも変わってしまうものなのか。
つまりはシズちゃんもこの眉間に寄りまくった皺を伸ばして口角を上げてにっこりと微笑んでみれば、津軽とかいうアイツと同じような顔が出来るということか。それは、ちょっと可愛い…いや、ないないない。


「おい、何ボケッとしてんだノミ蟲。マジで殺すぞ」


己の中に浮かんだ危険な考えをブンブンと頭を振って追い払う。
殺されてたまるものか、と何やら物騒な台詞を吐きだしたシズちゃんを真正面からもう一度見据える。
だがサングラスの奥に隠された瞳を睨みつけていたはずの俺の視線は徐々に下がり、未だ俺に対する暴言を吐き連ねているシズちゃんの、忙しなく開閉される唇の動きに目が吸いつけられた。
脳内に蘇るのは先程の津軽とのキスの感触。
無理矢理口づけられた津軽の唇は男のものとは思えないほど柔らかくて、暖かかった。
男とキスした経験なんてあれが初めてだったから比べる基準も何も無いのだけど、心地良さを感じたのは悔しいが確かだ。
ならばその津軽と瓜二つのシズちゃんの唇もあんなに柔らかくて気持ちいいんだろうか。だとしたら…


「…何だよお前、熱でもあんのか?真っ赤だぞ、顔」
「…えっ」


怪訝な顔をしたシズちゃんに指摘され、初めて自分の顔の熱さに気が付く。
思わず手を伸ばして触れた頬は焼けてしまうほどに熱い。
混乱してぐるぐると渦を巻く自分の思考回路を順に辿っていくにつれ、どんどん絶望的な気分になる。
俺、何を考えてこうなったんだ?シズちゃんの笑顔とか、唇の柔らかさとか、キスしたらどんな感じなんだろうとか…そんな馬鹿な!


「…っ馬鹿!シズちゃんの馬鹿!10回死んじゃえ!」
「はあ!?意味分かんねえんだよテメエ、何ギレだ!」
「うるさいな、黙れこの馬鹿!」
「殺す!ぜってー殺す!」


自分の感情を受け止められず、昂る気持ちのままに罵倒する俺に律儀に反応して
再びベンチを握り締めるシズちゃんに、鈍く光るナイフを向ける。
いつもは鬱陶しくて仕方ないシズちゃんのキレ症も、今日ばかりは有り難い。
真っ直ぐ俺めがけてぶん投げられたベンチを軽々と避け、自分の中に密かに芽生え始めた感情には気付かないフリをして俺はただ我武者羅にナイフを振るった。






「あーあ、あの2人喧嘩始めちゃったよ。どうしよう、津軽?」
「やらせとけ。そのうち落ち着くだろうから、話はそれからだな」
「それにしても、臨也くんとシズちゃんが昔は仲悪かったって本当だったんだね!俺たちの時代の2人はあんなに仲良しなのに」
「だから、俺達が来たんだろ。あの2人には何が何でもくっついてもらわないと未来の俺達が生まれなくなるからな」
「臨也くんとシズちゃんが結婚して、2人の子供として作られたアンドロイドが俺達だもんね」
「…まあ、俺達が未来からやって来た存在で俺達の時代じゃお前ら2人は腹が立つほどバカップルなんだ、と言って聞かしたところで信じるとは思えないけどな。そもそも俺達が御膳立てしたくらいであんな状態のアイツらがちゃんとくっついてくれるのかどうか…」
「心配性だなあ、津軽は!きっと大丈夫だよ、


だって臨也くんとシズちゃんだもん!」














くれーぷさまから頂いたリクエストで「ピンクの憂鬱」「ブルーの邂逅」の続編でした。
本っっ当にお待たせしてしまって大変申し訳ないです…!

もともとこの2編の続編は自分でも書きたいと思っていたので楽しく書かせて頂きましたが、その割にもんのすごく難産でした…。最終的にこのドラえもんの最終回みたいな未来オチはどうなんだろうと自分でも思いつつ…ザワ…ザワ…
サイ津ちゃんと臨静が同居している未来では4人が仲良し家族やってればいいです。やっちゃえよ〜お前らやっちゃえよ〜

くーたん、こんなものですみませんが愛だけはたっぷり込めてます!あっいらないねそうだよね
返品・苦情受け付けますのでなんなりとどうぞ><




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