※遊→門+静←臨





「静雄、これもやるよ」
「…ん、サンキュ。でも、いいのか?」
「いいって、気にすんな。…それにしてもよく食うな」
「仕事バタバタしてたから昼飯食いっぱぐれてよ。…これもいいか?」
「おう、食え食え」


仕事を終えそろそろ家に帰るかと夜道を歩いていると、同じく仕事を終えたばかりらしい静雄を見かけて何となく声をかけると晩飯がまだとのことだったので、それなら一緒に食おうと何気なく入ったファミレス。
給料が入ったばかりだったこともあり、気前よく奢ってやるよと言うと最初こそ委縮していた静雄だったが、遠慮するなと一声かけてからは本当に遠慮せずにバカバカ注文しやがって、余計なことを言ってしまったと少し後悔してみたり。
だが、この細い体の一体どこに収納されているのかと思うほどの食いっぷりは見ていて少し気持ちいい。
結局、静雄が欲しがるままに料理を薦めてしまう俺だが、まあたまにはこういうのもいいだろう。

これだけだと久々に会った友人との談笑を交えた楽しい食事の一時に思えるのだが。


「…なあ、静雄。あれ、いいのか?」
「あれって何だよ」
「い、いや、だから窓の外でアイツが…」
「アイツ?…別に何も居ねえだろ」


俺たちが座っているのは店の一番端、窓際の席だ。つまりは外から丸見えの席なのだが。
俺達と窓ガラス1枚隔てた向こう側に、ガラスにべったりと張り付いて此方側を眺めている男がいる。
察しのいい奴は言わずとも気付くだろうが、臨也だ。窓に張り付き静雄と食事をしている俺を恨めしげな目で見つめている。
物陰に隠れているならまだしも、ここまで堂々としたストーカーの存在に、さすがの静雄も気付いていないはずが無いのだがあくまで見えていないフリを決め込むらしい。…まあ、静雄がそれでいいならいいんだけどな。
だが、あまり良い交流関係ではなかったといえ同じ学び舎で青春時代を共に過ごした同窓生のこの成れの果ての姿には少々涙ぐみかけるのも仕方がないというものだ。…いやまあ、臨也もそれでいいならいいんだけども。


「そういや門田、今日はいつもの奴らと一緒じゃねえのか?」
「別にいつも一緒ってわけじゃねえよ。…まあ、何かとつるんではいるがな」
「ふーん」
「…っと、噂をすれば何とやら、だな」


面倒くさくて初期設定から変えていない無機質な着メロが鳴り響く。
画面を開いて見ると遊馬崎からだった。
チラリと静雄のほうを一瞥すると、小さく手を振り「出てもいい」という類のジェスチャーをされたので、通話ボタンを押し携帯を耳に押し当てる。
未だに此方を眺めている臨也をとことん無視して何食わぬ顔で煙草をふかしている静雄を眺めながら、何やら慌てた様子で喋くっている遊馬崎の声を聞き流す。
相変わらず電撃文庫がどうの二次元がどうのよく分からない内容を喋っていたが、最終的に要約すると緊急事態だとかで今すぐこっちに来てほしい、ということらしい。
通話を終えると、煙草の火を灰皿でもみ消しながら顔を上げた静雄と視線が合う。


「悪い、何か呼び出されちまった」
「いいって、頼りにされてんじゃんか。行ってやれよ」


顔の前で軽く手を合わせると、静雄が微笑しながら手を振る。
その顔は本当に穏やかで、喧嘩をしていない時のコイツはやっぱ普通にイイ奴だよな、なんて思ったり。
会話は聞こえていないだろうが、立ち上がったことで俺が帰ることが分かったらしい。未だ外で張り付いている臨也の顔が少し明るくなる。
最後にもう一度、悪いな、と謝ってから伝票を手にレジへと向かった。
会計を済ませて外に出ると、丁度ムッツリとした顔で此方へ歩いてくる臨也と目が合ってしまった。正直あまり関わりたくないが、顔を背けてみたって今更遅い。


「ドタチンさあ、止めてよねシズちゃんにちょっかいかけるの!」
「別に一緒に飯食っただけだろ」
「俺はその飯すら一緒に食えないっていうのに!」
「それはお前の問題だろ」
「何言ってんの、俺のシズちゃんに対する愛がまだまだ足りないって言いたいの?」
「だからそういう意味じゃ…ああ、もうそれでいいや。俺、遊馬崎に呼び出されてんだよ、もう行くぞ」
「なーんだ、俺時間稼ぎしてあげてたのに。あんま焦らないでゆっくり行ったほうがいいんじゃない?途中で鉢合わせでもしたら向こうも都合が悪いだろうからさ」
「…?なに言ってんだ?」
「別に。じゃあね、ドタチン」


ヒラリと手を振った臨也が、俺とすれ違いでファミレスへと入っていく。
「おひとり様ですか」と声をかけてきたウェイトレスに、静雄が座っている席を指差しながら「待ち合わせだから」などと嘘八百をのたまっている臨也を横目で見ながら首を傾げる。
ゆっくり行けって…鉢合わせってどういう意味だ?遊馬崎は緊急事態だのなんだの言っていたというのに。
臨也の言葉の意味が分からず首を捻るが、まあアイツが意味の分からない言動を繰り返すのは今に始まったことではないのだから別段気にすることもないだろう。

ファミレスへと向けていた視線を再び前へと戻す。その瞬間、視界の端に見慣れた水色のパーカーがチラリと映った気がした。
まさか、と思いながらもう一度その方角へと視線を戻すとやはりそこには誰も居ない。


「…気のせいか」


遊馬崎が指定してきた場所は此処からかけ離れている。呼び出した張本人がこんなところでウロウロしているはずがない。
もう一度ファミレスの窓際の席へと視線を向けると、向かい側の席に座り何やら1人で喋りかけている臨也と、ひたすら無視を決め込み残った食事を黙々と口に運ぶ静雄が見えた。
アイツらもまとまっちまえばいいのにな、いい加減。少し苦笑しながら、呼び出された場所へと向かうべく足を踏み出した。











(シズちゃん、俺の誘いは断るくせにドタチンにはホイホイ付いて行くってどういうことだよ!)
(あ、ヤベ。携帯の充電切れる)
(ちょっと聞いてる!?俺だったらこんなファミレスじゃなくてもっといいもの食べさせてあげるのに!)
(よし、明日も仕事だし、さっさと帰って寝るか)
(シ、シズちゃんがその気なら俺だって勝手にするからね!勝手に家まで付いていくからね!)







▼静雄と飯食ってる門田さんを偶然見かけてムラァッと妬いて緊急事態とか何とか嘘ついてお呼び出しかけて引き離しちゃった遊馬崎さん。
オープンストーカーな折原と、こっそりストーカーな遊馬崎さんでどうでしょう。何が?



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