※オリキャラ注意!




「平和島さん、お電話です」


帰り支度を済ませ、事務所から出ようとしていた背中に声をかけると、不意に呼び止められた彼は、足を少しつんのめらせながら此方を振り返った。


「俺?」
「あ、はい。…もう帰社されたことにしておきましょうか?」
「いや…誰ッスか」
「それが名乗られなくて…。平和島さんをお願いします、ってそればかりで」


そう告げると、静雄さんは少し眉を寄せ怪訝な表情をしながらも受話器を取った。
保留ボタンを押し、静かな声でもしもしと呟く。

どうやら一方的に喋っているらしい受話器の向こうの相手に、時折はあ、はあと相槌を打つ静雄さんの横顔をぼんやりと眺めて、私は小さくほうと溜息をついた。
きれいだなあ…。
彼が頷く度にキラキラと揺れる金髪も、筋の取った鼻筋も、サングラスの奥の澄んだ瞳も、女である私が思わず嫉妬してしまいたくなるほどに美しかった。

池袋の喧嘩人形だなんて呼ばれている彼を、怖いと思わないわけじゃない。
実際に彼が暴れている場面を何度か目撃したことがあるが、その規格外の暴れっぷりに私の体は少なからず恐怖に震えた。
でもそれ以上に私は、彼が本当は優しい人だということを知っている。
彼が甘いものが好きだということを風の噂で耳にして、家で手作りしたマフィンを、ちょっと作りすぎちゃって…なんてベタな嘘を付いて手渡したときも、彼ははにかんだような表情で「どうも」と笑って受け取ってくれた。

私は静雄さんのことが好きだった。




「…はい、じゃあ」


3分程の通話を終えた静雄さんが、静かに受話器を置いた音で私はハッと我に返る。


「お電話、どなただったんですか?」
「ああ…いや、ただの勧誘。じゃ、お先です」


短くそう告げて、今度こそ事務所を出た静雄さんの背中を見つめながら、嘘だ、と思った。
何故と言われると上手く説明できない。
例えば電話を切った瞬間の静雄さんの表情だとか、事務所を出た時の静雄さんの少しそわそわした足取りだとか。
そういった小さな事柄全てが、何かある、と私に告げていた。
いけないことだと思いつつも、数歩離れたところから静雄さんの後を尾けた。
静雄さんが向かったのは1階へと下るエレベーターではなく、最上階である屋上へと続く階段。
これで私の予感は確信へと変わる。

静雄さんが階段を上るカツカツという靴音が響くなか、私は気づかれないように靴を脱いで忍び足で後を尾ける。
ギイイ、と扉を開く軋んだ音が聞こえて彼が屋上に到着したらしいことが分かった。
扉の影に潜んでコッソリと外を覗き見ると、夕焼けに照らされてキラキラと光る静雄さんの髪越しに、屋上の柵にもたれかかる全身黒ずくめの細身の男の人が見えた。
その影がゆっくりと此方を振り向き、顔が確認できた瞬間、私は息を呑んだ。


「やあ、シズちゃん。待ちくたびれちゃったよ」
「…会社には電話すんなって言ったろ」
「名前は言ってないし大丈夫でしょ?バレやしないよ」
「そういう問題じゃ…!」
「じゃあシズちゃん、早く携帯修理するか家に電話線引くかしてよ。携帯水没させてぶっ壊すなんて本当、変なとこでヌけてんだから」


折原臨也。
池袋でその名を知らない人は少ない。このあたりでは静雄さんと並んで有名な人だ。
そして平和島静雄と折原臨也は犬猿の仲である、ということは小学生でも知っているほど周知の事実だ。
なのに、そんな2人が何故こんなところで待ち合わせをして、しかも親しげに話をしているのか。
私にはとてもじゃないが理解できない。
静雄さんの携帯が壊れていることを何故折原さんが知っているのかということも。
折原さんが静雄さんの髪を愛おしそうに撫でていることも。
その表情が本当に幸せそうであることも。


「シズちゃんと連絡が取れないと心配なんだよ。俺が目を離してる隙にどこの馬の骨とも知れないメス猫にたぶらかされてるんじゃないかって」
「んなことあるわけねえし、そもそも馬なのか猫なのかどっちだよ、それ」
「変なとこで揚げ足とんないでよ。だってシズちゃん基本的に天然だからさ」


私の胸がドキリと鳴った。
まさか、まさか。でもこの状況はそうとしか思えない。
自然に荒くなる呼吸は、緊張しているのかそれとも興奮しているのか。
息が詰まりそうな思いを味わいながら、冷静な判断力を失いつつあった私は、戸口から更に顔を覗かせた。


「忘れないでよね。シズちゃんは俺のもの、なんだからさ」


静雄さんの肩越しに、冷たい紅い瞳と目があった気がした。









オリキャラというか何というか、な感じですが。
8巻に出てきた取り立て会社の事務員のお姉さんを出したかった。



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