誰にでもツイてない日ってのは存在する。
私にとっては今日が正にそれ。

朝から曇り空で天気は悪いし、電撃文庫の新刊を一緒に買いに行く約束をしてたゆまっちは急用で行けないとかでドタキャンしてくるし、ドタチンは仕事・渡草っちは家の用事だとかで捕まらない。
他のコスプレ仲間に連絡してみても、さすがに平日の真っ昼間なんかじゃ誰も付き合ってくれないし。
一人でウロウロしたってつまんないよー。
よし、こういうときはBLに癒されるに限るよね。そういや好きなサークルさんの同人誌の書店委託が始まったって聞いたし。
急降下していく気分を何とか持ち上げるために、いざ行かん乙女ロード!

おー、と拳を突き上げたところで、背後からガシャーンだのドグシャーだの言葉では言い表しがたい衝撃的な破壊音が聞こえた。
思わず振り返ると、視界の端にチラッと映ったのは上空に舞い上がる自動販売機。
そしてすぐさま、ドスの利いた低い声と軽やかに笑う爽やかな声が、通路中に響き渡る。


「いいぃざああぁやああ!」
「あはは、いい加減シズちゃん公共物破壊するの止めたらあ?すっごい迷惑ー!」
「テメエが大人しく捕まりゃいいだけの話だろうがああぁぁ!」


風のような速さで駆け抜けていく、黒いコートを羽織った男と金髪のバーテンダー。
今や池袋の名物になりつつある、名コンビの逃走劇だ。
本当、シズシズもイザイザも飽きずによくやるよねー。
あの2人が実は愛し合っててボーイズにラブっちゃってたらすごく素敵だけど、そんなことをドタチンやゆまっちに漏らしたらかなり不可解な顔されちゃうからちょっと悲しい。
2人ともかなりのイケメンだから、絡み合ったらすっごく絵になると思うんだけどな。あっ想像したら鼻血が出ちゃいそう!
ま、私も現実と妄想の区別は一応つけてるつもりだし。
リアルBLなんてそうそう有り得ることじゃないってのはちゃんと分かってはいるんだけどね。でも、妄想するだけならタダだし?

あっという間に走り去って見えなくなってしまった2人に想いを馳せながら、私は乙女ロードへと足を向けた。






いやー大漁大漁!
やっぱり落ち込んだときは乙女ロードで癒されるに限りますなあ。
右手にぶら下げた大量の袋の中にはひしめき合う今日の戦利品達。ずっしりと肩にくる重みも、イコール私の幸せの重さだと思えばどうってことない。
時間を忘れて入り浸ってしまっていたようで、乙女ロードに向かう前はまだ明るかった空も今ではとっぷりと暮れてしまっている。
やばやば、早く帰んないと。えい、近道しちゃえ!
普段はあまり使わない裏道に足を踏み入れると、夜でも賑やかな表通りとは全く雰囲気が違う街並にちょっぴり心を躍らせつつ急ぎ足で歩を進めた。
二次元の世界じゃ、こういう汚い路地裏で傷だらけで記憶喪失とかになっちゃってる美少年と出会ったりするんだよねー。


「……ッ!」
「ん?」


そんな馬鹿みたいな妄想に耽っていると、途端に聞こえた小さな声。
声がしたほうへ視線をやると、それはビルとビルの隙間で死角になった狭い路地から聞こえたみたいだった。
まさかまさか、傷だらけの美少年!?命の恩人である私に感謝して求婚されちゃったりして!?
いやーん、どうしようなんてちょっぴり興奮しながら、こっそりと路地を覗き見る。
そこに居たのは傷だらけの美少年でも、酔っ払いの親父でも無かった。
もっともっと私の度肝を抜くような信じがたい光景がそこには広がっていたのだ。


「…っん、あ、いざやっ…!」
「どうしたの、シズちゃん。もう我慢できない?」
「はっ…、あ、ばかやろっ…こんなとこで盛ってんじゃっ…ぅあ!」
「とか何とか言って、ぐしょぐしょだよ、ここ」


路地裏でまぐわっている2つの影はどちらも男のものだった。
それだけならリアルBLキター!と涎を垂らしながら興奮すること必至だったんだけど、私がしばらくポカンとしてしまったのはその2つの影がどちらも顔見知りのものだったからであり、しかもその2人が犬猿の仲と噂される折原臨也と平和島静雄だったからであって。
いやいや、落ち着いてよ私。そりゃ、あの2人がデキてれば美味しいよねー!なんて腐女子仲間と話の種にしたりはしてたけど勿論そんなことは有り得ないという前提でのただの妄想として話していただけであって…あ、なーんだもしかしてこれって何かの夢?よーし、頬つねってみよう、えいっ…い、痛い!夢じゃない!


「は、あんっ…、も、いいからっ…早く終わらせろよぉ…!」
「素直じゃないなあ。欲しいから早く挿れて、って言えばいいのに」


辺りにぴちゃぴちゃと響く水音は、どうやら2人が絶えず交わしているキスのものだけではないらしい。
シズシズの下半身辺りに伸びているイザイザの腕の行方を辿ってみると、その細い指がシズシズの後ろの穴にしっかりと入っているのだ。
イザイザの指が小刻みに出し入れを繰り返す度、ぐちぐちという水音とシズシズの口から漏れる喘ぎ声が路地に響く。
ていうか、この状況から察するに臨也攻めの静雄受け?
うっそー、私絶対に逆だと思ってたのに!


「ま、いいけど。俺もいい加減、限界だし」
「なっ…、ま、待てっ、いざや…!」
「今更待ったはききませーん。早く終わらせろって言ったのはシズちゃんでしょ」
「ん、や、あっ、あああ!」


シズシズの右足を抱え上げて壁に押しつけた後、イザイザがぐっと腰を押し進める。
途端にシズシズの口から甲高い声が漏れた。
その体勢のままイザイザが激しく突き上げる度、不安定な姿勢のシズシズの身体が揺れる。
足を抱え上げたままのその体勢は、何ていうんだっけ…いわゆる、駅弁っていうの?
そんな感じでイザイザにすごく負担がかかっていそうなんだけど。
イザイザのほうが細いし小柄だし女の子みたいなのに、うーんイザイザもやっぱり男の子だったんだね。


「あっ、はっん…、や、あっ、ひぅ」
「シズちゃんさ、ちょっと声おっきいって…誰かに聞かれでもしたらどうすんの」
「ならっ、あっ、こんなとこでっ…、盛ってんじゃっ…ねぇよぉ…!」
「はは、それはシズちゃんがエロイのが悪いよねえ」


イザイザが激しく腰を動かしながらのたまった理由は、ものすごく理不尽で棚上げなものだったけど今のシズシズにはそれに突っ込む余裕すら無いらしい。いや、突っ込まれてるのはシズシズだけど。あ、オヤジギャグ。

ぐちゃぐちゃという水音と、肌と肌がぶつかるパンパンという音が暗い路地に響く。
この激しい音の中では、次第に荒くなってくる私の呼吸の音も上手く掻き消されている。
それにしても、妄想の中じゃともかく生で男同士のエッチシーン見るのなんて初めてだよ、すっごい…。
本当にお尻の穴に、あんなの入っちゃうもんなんだ…。
初めてはすごく痛いらしいってよく聞くから、シズシズのあのよがり様を見る限りじゃ、かなりの経験者と見た。
…この2人って一体いつから付き合ってたんだろ?


「はっ…ん、あ、やっ!ふぁ、もっ、やだっ…いざやぁっ…!」
「…っ、シズちゃんそういうの反則っ…!」


本当に気持ち良さそうなとろとろに蕩けた表情で、シズシズが甘ったるくイザイザの名前を呼ぶ。
少し掠れた甲高い声で紡がれた、吐息と喘ぎ混じりのその呼びかけには、関係ない私でさえもドキリと胸が撥ねた。
もし私の股間にアレが付いてたら、今頃絶対フル勃起!間違いない!
私でさえもそうなんだから当然、名前を呼ばれた張本人のイザイザが我慢できるはずがない。


「あ、あ、あんっ、はっ、や、はげしっ…!」
「今のは絶対シズちゃんが悪いんだからねっ…?」
「あっ…ん、なにがっ…あ、や、もっ…!あああ!」
「…っ、くっ…!」


悲鳴にも似た喘ぎを漏らしながら達したシズシズの中からズルリと性器を引き抜くと、イザイザはそのままシズシズのお腹あたりに白濁をぶちまけた。
2人でずるずると崩れながら壁にもたれて、荒い息を整えている。


「…テメエどこに出してんだよ、服がぐちゃぐちゃじゃねえか。これで帰れってのか」
「いいじゃん、俺のコート貸してあげるよ」
「くそ、こんなんならまだ中のほうが…」
「あっれー、シズちゃん俺に中出しして欲しかったのー?それならそうと言ってくれればいいのに!」
「…っ、殺すぞ!」


先程までの甘い雰囲気は何処へやら、またいつものような言い争いを始めた2人を見届けながら私はコッソリ踵を返した。
まあ、2人とも下半身丸出しで精液まみれってとこが全くいつも通りじゃ無いんだけど。

それにしても、まさかあの2人が本当にデキてたなんて!
いやー、眼福眼福!いいもの見たなあ!ああ、この興奮と喜びを今すぐ誰かと分かち合いたいよぉー!…って、あれ、メール?
バッグの中に入れた携帯が震えていることに気付いて、手を突っ込んで取り出すと、受信ボックスの中には見覚えの無いアドレスから届いたメールが1通。
でも、私にはそのメールの送信者が誰なのか容易に想像がついた。


『さっき見たこと、誰かに話しちゃ駄目だからね?』


あちゃー、なんだやっぱり覗いてたのバレてたか。さすがイザイザ、目敏いなあ。
言い方は柔らかいけど、あの情報屋さまのことだ。もし誰かに言い触らしでもしたら、どんな恐ろしい報復が待っているか分かったもんじゃない。
すっごく惜しいけど仕方ない、この大スキャンダルは私の胸の内に秘めておくしかないのかな。…でもやっぱり惜しい。

ちょっと悔しい気持ちになった私は、返信のボタンを押すと、カコカコとメールを打ち始める。
出来あがったメールを読んでみて、少し首を捻りながら暫しの逡巡。
どうしよう、これちょっと調子のっちゃってる?怒られちゃうかな?いや、でもこれくらい許されるよね!えいっ、送信!
返信くるかなあ?ふふ、楽しみ!


『口止め料として、シズシズのエッチな写メ横流ししてくれるならいいよ!』

















蝶蘭さまから頂いたリクエストで『路地裏で情事中の臨静を見て興奮する狩沢』でした。

私の荒ぶり様がありありと分かりますね…!
これ狩沢さん目線やない私目線や!って言ってもいいぐらいニヨニヨしながら書いてました。気持ちが悪い!
静臨と見せかけての実は臨静というシチュエーションがすごく好きです。攻めだと思っていた静雄がまさかの受けでアンアン言ってるのを見てびっくりでも何この子すごく可愛い!ってなればいいです狩沢さん!

蝶蘭さま、素敵なリクエストを有難うございました!相変わらずの長文ですみません…!
苦情・返品受け付けます><



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