※津軽×静雄





仕事を終えて帰宅すると部屋にもう1人の俺が居た。


なんて、ファンタジー小説の冒頭部分のような一文が脳裏に浮かんでしまう光景に、俺は目を疑った。
ぎゅっと目を瞑ってから恐る恐る開いてみても、目に映る光景は何も変わらない。
そしてこれはファンタジーでもメルヘンでもない、紛れもない現実だ。

決して広いとは言えない部屋の真ん中で、律儀にきちっと正座をしている俺と瓜二つの顔をした男。
白地に群青の色が染められた着物を着ているそいつは見れば見るほど俺にそっくりだ。違うところと言えばコバルトブルーの瞳の色くらいなもので。
部屋のドアを開けて不審人物を確認してから硬直してしまった俺をじっと見つめ、そいつは金髪をさらりと揺らして不思議そうに首を傾げた。畜生、首を傾げたいのは俺のほうだ。


「な、なんだよ、お前…」


知らない奴なら、恐らく泥棒だろうと見当をつけて問答無用でぶちのめすことも出来る。
金目のものなんて殆どと言っていいほど何もないこの部屋に盗みに入るなんてツイてねえな、と同情してやることも出来る。
でも、今俺の目の前にいるコイツはどうだ。
部屋の真ん中に身動きせずちょこんと座っている所からしてどう見ても泥棒とは思えないし、そもそも俺と全く同じ顔をしているのは一体どういうことだ。
頭をフル回転させたところで答えが出るはずのない疑問を渦巻かせている俺の口からポツリと漏れた呟きに、そいつはもう一度首を傾げてから、己を指差してから口を開いた。


「俺、津軽」
「は?」
「津軽。俺の、名前」
「い、いや、名前とか聞いてんじゃなくて…」


俺が聞きたいのはお前が一体何者で、何で俺と同じ顔をしていて、何でさも当然のように俺の部屋に居るんだって事であってその疑問の前には名前がどうとかなんて限り無くどうでもいい話だ。
だが先程からまともな会話が成立しないコイツに対して、そんな俺の気持ちを語ったところできちんと伝わるとは到底思えない。
思わずハア、と溜め息をつくと、津軽と名乗った男が俺を見て不安そうに眉を寄せた。
その情けない顔を見て、俺はいつもこんな顔をしているんだろうか、なんてふと思った。

俺と津軽の間に落ちた1分とも1時間とも思えるような重い重い沈黙を破ったのは、意外にも津軽のほうからだった。
正確には、津軽の腹から発せられた腹の虫の音、だったのだが。
静かな部屋に鳴り響いたその、ぐうううという凄まじい音にあれこれ考えていたことが馬鹿らしくなって思わず笑みが零れた。


「…腹、減った」
「…だろうな」


両手で腹を押さえてポツリと呟いた津軽に苦笑を返す。
まあ、詳しいことを聞くのは後からでもいい。
自分と同じ顔をした奴を邪険に扱うのも何処となく気分が悪いし、とりあえず何か食わせてやるか。
近頃買い物に行っていなかったけれど、何かあっただろうか。冷蔵庫の中身を思い出しながら立ち上がろうとした俺の腕を津軽が突然ぐいと引っ張った。


「う、わっ!」


バランスを崩した体がドスンと音を立てて畳の上に転がった。
その衝撃で古いアパートの天井からパラパラと埃が舞い落ちたが、そんなことはお構いなしに俺を転がした張本人である津軽は何食わぬ顔で俺の腰の辺りに馬乗りになった。…なんだ、この体制。


「おい、お前…」
「腹、減った」
「だから、何か食わせてやろうとしてんだろ。どけよ」
「腹、減った」
「………」


会話が成立しない。
どうすりゃいいのか、ほとほと困り果てている俺の身体に視線を彷徨わせたあと、何かを思い付いたように津軽は俺のシャツを捲り上げた。急に外気に晒された冷たさに、肌が震える。


「な、何がしてえんだお前はっ…!」


慌てて声をかけるが津軽は何も答えず、不思議そうに首を傾げるだけだ。だから首を傾げてえのは俺のほうだっての!
露わになった俺の胸に顔を寄せた津軽がフンフンと鼻を鳴らす。…匂いを嗅がれているんだろうか。何となく恥ずかしくて顔が羞恥に染まる。
鼻を鳴らしながらぺたぺたと胸板を触っていた津軽が、目的のものを見つけたように目をキラリと輝かせた。
その瞬間、俺の頭によぎった嫌な予感は、不幸なことにもれなく的中することになる。

俺の胸に存在する突起に目をつけた津軽は、それを迷うことなく、ぱくりと開いた口に含んだ。
思わず上ずった声が漏れて、咄嗟に両手で口を塞ぐが津軽はそんなこと気にもしていないように俺の乳首を唇で甘噛みしながら、ちゅう、と音を立てて吸い上げた。


「あ、ぁっ…、なんっ…、や、やめろ…って!」
「…んむ」


制止の言葉を叫んで、ぐいとその頭を押してみるが津軽は俺の乳首に吸いついたまま離れようとしない。
津軽の生温かい口内に含まれ、時折ぺろりと舌で乳頭を舐め上げられる。
ああ、何で。何でこんなことになってんだ。
自分自身への問いかけがぐるぐると頭の中を渦巻くが、徐々にとろけてくる思考回路ではまともな答えを導き出すことなんて不可能だ。


「はっ、やん、あ、あっ…、ん」
「…む、出ない」
「はっ…?で、出ないって…ん、なにがっ…」


もしかして、アレか。母乳とかか。出るわけねえだろ頭おかしいのか!
ちゅうちゅうとまるで赤ん坊のように俺の乳首を吸い上げていた津軽は、そこからは目当てのものが得られないことにようやく気付いたようで少し不満そうに唇を尖らせた。
それでもまだ未練たらしく親指と人差し指で乳首をつまみ、ぐりぐりと弄ってみたりしている。
やめろ、そんなことされても俺のそこからは何も出ねえ、出るのは俺の気持ちわりい喘ぎ声くらいなもんだ、いい加減気付けこの馬鹿!


「…そうか」
「んっ、何だよ…?って、ちょ、お前っ…!」


何かに閃いたらしい津軽がぽんと手を打ったかと思うと、奴がその次に起こした行動に俺は目を見開いた。
いや、でも何となくそんな気はしてたけどな、畜生!
腰の辺りから足元のほうへと移動した津軽は、器用に俺のベルトを素早く取り外すとスラックスと下着を一気にずり下げた。
俺がストップをかけるよりも早く、ゆるく勃ち上がった性器を口にくわえられ、寸前まで出かかっていた制止の言葉は喉に絡んだまま押し込められてしまう。


「は、あんっ…、や、やだ、んっ…ああっ」
「む、…ん、んむ」
「や、ちょ、頼むっ、頼むからもう止めっ…、ああ、やっ!」


津軽が頭を上下に動かす度、津軽の涎と俺の先走りが絡み合う水音が、静かな部屋にじゅぷじゅぷと卑猥に響く。
最初はただ舐められているだけだったので少しの余裕もあったが、そのうち伸びてきた手に竿を扱かれたり裏筋をなぞられたりして、頭がどんどん真っ白になっていく。


「ああ、や、もっ駄目、だっ…!イク、イクからっ…!」
「…ん、ふぁっ」
「あ、あんっ…、や、ああぁっ!」


袋を揉まれながら、自身をじゅううと吸い上げられて俺は呆気なく達してしまった。
朦朧とする意識のなか、はあはあと肩で息をしながら視線を向けると、津軽がごくりと喉を鳴らすのが見えた。
…こいつ、本当に飲みやがった。
口内に収まりきらなかったらしい白濁が唇の端から少し零れているのが視界の端に映って、俺はまるで嫌な物を見てしまったかのように視線を逸らした。

くそ、何でこんなことに。
今まで一体何度思ったか知れない疑問がまた湧きあがってきて、小さく舌打ちをする。
まあいい、後でコイツを絞めあげてでも吐かせてやりゃいいだけだ。こっちがちょっと甘い顔してやりゃ図に乗ってこ、こんな…こんなことしやがって。

段々正常を取り戻してきた思考回路で、一体何から聞き出してやろうかと考えを巡らせる俺の視界にふいに影が落ちる。
顔の横につかれた、白い着物の振袖から覗く腕は間違いなく津軽のものだ。
俺の頭に再びよぎった嫌な予感を振り切るように顔を上げると、視界に映ったのは俺に覆いかぶさる津軽の姿。


「な、なんだよ」
「…腹、減った」
「は?お、おまえ…」

「足りない…。もっとちょうだい、静雄」


にこり。
初めて見た津軽の笑顔は、俺にはまるで天使のような悪魔の微笑みに見えた。
















日向葵さまから頂いたリクエストで「津軽×静雄で裏」でした。

裏ぬるくね…?す、すみません…
津軽たん相手に本番を書く勇気が湧かなかったので、ぺろぺろしてるだけで終わってしまいました。
そもそも、腹が減ったなら俺のザーメン飲ませてやるよ!っていうどこのエロ漫画だよな展開もすみません…何だかもう全てにおいて頭が上がらない思いです…

天使のようなー悪魔の笑顔ーは、近藤マッチのお歌のフレーズですが(ふっるいな!)どちらかと言えばサイケたんのイメージですよね。

日向さま、こんなものですみません><苦情・返品受け付けます…!



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