「だから、そういうんじゃねぇって…!」
「何が違うのか不明です。理解困難。説明を要求します」


何してんだコイツら。
ぶらりとコンビニに買い出しに行って帰ってくると、留守番をしていた後輩2人が何やらよく分からない言い争いをしていた。
いつもの調子を崩さず質問攻めをしてくるヴァローナに、言葉に詰まった静雄が頭を抱える。
普段の静雄ならこんな事をされようものなら、テメエに説明してやる義理なんか無ぇんだようっぜえええ、
とぶちキレていてもおかしくない頃合いだが、その相手が女であり静雄にとって初めて出来た後輩のヴァローナであることから、池袋の魔人の堪忍袋の緒は奇跡的な耐久性を見せている。


「おいおい、何してんだお前らー」
「あ…トムさん」


でもこれもまぁ時間の問題だわな。
静雄の堪え性なんてたかが知れているのだから、とりあえず奴がキレる前に間に入っておこうと声をかけると、ようやく俺が戻ってきている事に気付いたらしい2人が顔を上げた。


「何か知らんが、喧嘩すんなよ。仲良く仲良く」
「け、喧嘩とかじゃ無いッスよ!こいつがよく分かんねーこと言い出すから…!」
「分からないのは先輩のほうです。丁度良いです。トムさんにも聞いてもらいます」
「っおい!ト、トムさんには言わなくていいから!」


真っ直ぐ俺のほうを見て開きかけたヴァローナの口を、静雄が慌てた様子で手を伸ばし咄嗟に塞ぐ。
あ、何だろうこの疎外感。
なんつーか、アレだ。思春期の娘を持つ父親のような気分だ。
お父さんの服と一緒に洗濯しないでって言ったじゃん!って言われたような気分だ。
なんだ、静雄も気がつかない間に大人になって…。って、いやいやそうじゃねえだろ。


「何故トムさんに話してはいけないのか不明です。理解不能です」
「そうだぞ静雄。俺には言えないようなこと話してたのか?」
「だっだから……その…!」


んー?と顔を覗き込むと、2人に責められ半泣きになった静雄があぐあぐと口を動かしたあと、もういいッスと小さく呟いて、座っていたソファの隅っこに寄り、そっぽを向いて煙草を吹かし始めた。
なんつー分かりやすい拗ね方すんだ、コイツは。
思わず吹き出しそうになるのを必死で堪えながら、静雄が端に寄ったことで空いたソファのスペースに腰を下ろす。


「で、何だって?」


ヴァローナに向かい合い、例の話の詳細を促す。
ヴァローナはちらりと静雄の横顔に視線を遣った後、俺の目を真正面からまっすぐ見て口を開いた。


「先輩が言っていました。トムさんのことが好きだと」
「………ん?」
「トムさんは家族以外で初めて先輩を理解してくれた人間だと。だからトムさんは先輩にとって特別なのだと」
「………んん?」
「理解可能ですか?肯定ですか?」
「……こーていです」


人が居ないときに何て熱烈な大告白をしてくれちゃってるんだ、コイツは。
チラリと隣りを盗み見ると、静雄は先程より遥かにそっぽを向いてしまっていて此方からは最早背中しか見えない角度になっている。
しかしその背中が居心地が悪そうにそわそわとしている事から、今ヴァローナが言っている事は恐らく真実なのだろう。


「好きとはつまり恋慕の情ということです。つまり先輩はトムさんとお付き合いをしたいのですかと問いました」
「何か、随分話が飛躍してんな…」
「すると先輩はそうじゃないと否定しました。恋愛ではなく友愛なのだと。私はその違いが分かりません」
「だから静雄を質問攻めにしてたってことか」
「先輩、明確な答えを出してくれませんでした。なのでトムさんに問いかけます」


俺に対する感情が恋愛ではなく、いわば友達や家族に向けるそれであるという話が静雄の本心なのか或いは照れ隠しなのか、そんなことは俺に判断できるものじゃない。
でも、俺にも言えることがただひとつある。


「その答えは静雄本人に聞かなきゃ、俺からは何とも言えねえなあ」
「なんと…期待外れです。残念無念」
「でもよヴァローナ。俺から言えることがひとつだけあるぜ」


脚を組み直してそう告げると、ヴァローナは少し首を傾げて俺の瞳をじっと見つめ先を促した。
煙草を吹かしながら興味の無いふりを装い続けている静雄も、耳をそばだてているのが分かって、俺はくつくつと喉の奥に笑いを押し込めながら口を開いた。


「俺も、静雄のことが好きなんだ」


そうだなあ俺の場合は友愛じゃなくて恋愛で。
そう告げると背中を向けていた静雄の肩がビクリと震えて真っ赤な顔で此方を振り向くのが、視界の端に映った。







取り立て組が可愛すぎて胸が苦しい。



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