「臨也なんか嫌いだ馬鹿野郎!」


そう言って俺は臨也の家から飛び出した。しょうもない喧嘩だった。嫌いだとか、そんなのは嘘に決まっている。喧嘩をきっかけに逃げたんだ、臨也から。お互いに好きだって思ってることが分かって嬉しくて、付き合ったのはいい。一緒にいるうちに、だんだん怖くなってきた。いつか、臨也を壊しちまうんじゃねえか。臨也の側に居てはだめだと思いはじめ、今回の喧嘩で関係を断ち切ってやろうと決心してしまった。それに世間に言わせれば男同士だなんて言語道断なのだろう。


「………」


臨也の家から結構離れた路地を歩く。携帯が何度も何度も振動していた。臨也からだというのは携帯を見なくてもわかる。なんて臨也らしくない行動だろうか。そんな事を思って少し笑える。それと同時に、自惚れかもしれないが俺の事を想ってくれてんだな、と思わず胸が弾んだ。でも今の状況では、その嬉しさもすぐになくなる。罪悪感でいっぱいだった。
勢いで臨也の家から飛び出して来てしまったが、正直行く当てがない。自分の家は恐らく臨也が尋ねてくる可能性がある。しばらくそこら辺歩いて時間を潰すしかない。


「あ、静雄」

「ああ…新羅」


ばったり新羅に出くわした。タイミングが悪すぎる。大体いつもこいつは嫌な時に出て来やがる。余談だが外で新羅を見るのは稀な気がした。


「新羅、何やってんだ?」

「仕事だよ。治療に行ってたのさ。あまりに怪我が酷いから来てくれって。静雄は?仕事じゃないのかい?」

「…まあ、色々あってな」

「臨也と色々あったんだ」

「っな、は!?」


何でそうぴたりと言い当てるんだ手前は!こんなに動揺してしまっては、もうごまかしもきかない。新羅は僕で良ければ話を聞くけど、ととどめをさされる。そんな事を言わて、俺の張り詰めていた何かがぷつんと切れた。


「…っ、もう臨也と会えねえんだ」

「えっ、何で?」

「俺…いつか臨也を壊しちまいそうで、一緒に居られねえっつーか…」

「何だ、そんなこと」

「そんなことって新羅!」

「ああごめんごめん。じゃあ聞くけど、静雄は今まで臨也と何やってたの?」

「…え?」

「あれだけの喧嘩を繰り広げた二人だ。臨也は君の攻撃をかわしただろう?」

「あ…ああ」

「だから、もし静雄が臨也を壊しそうになっても、臨也は難無くそれをかわしてくれるって僕は言いたいわけ」


新羅は俺以上に臨也を理解している。そう思った。俺が臨也をわかろうとしていなかっただけなのか?よく、わからない。


「静雄、臨也が好きかい?」

「…んなにもやもやしてんなら…好きなのかもな」


ちょっと照れる。へえー、と納得したように新羅は頷いてこう言った。


「だって、臨也」


……は?
新羅は俺の少し後ろを見て言った。臨也、と言った。わけわかんねえ、どうなってんだ。俺は思いきって振り返った。


「……い、ざや…」

「あ…いや、盗み聞きするつもりはなくてね!違うからっ」

「ごめん静雄、話の途中に臨也が後ろに見えたからね。え、えーと、あとは二人に任せるよ!」

「あ、おい!」


新羅は冷や汗をかきながらその場から逃走した。つまり、臨也と二人。なんか、気まずい。


「……かった」

「え?」

「何でここがわかった!」

「あは、内緒」

「っ」


すたすたと俺の近くに歩み寄ったかと思えば、ずいっと顔を近くに寄せてきた。反射的に顔を引く。俺は意を決して言葉を放った。


「…っ臨也…別れない、か」


俺がそう言うと、臨也から表情がなくなった気がした。近付けていた顔を離して、臨也はゆっくりと口を開いた。


「嫌」

「…でも」

「何で?どうしてさ、好きなんなら別れる必要ないじゃん」

「好きだからこそだ!」

「…っ、シズちゃん…」


臨也がイライラしているのが分かった。臨也の言葉を遮って叫ぶと、臨也は悲しそうに俺を見つめた。こんな顔させたいわけじゃないのに、そうするしかなかった。


「俺にはっ人間じゃねえような力があるが自分じゃコントロールなんか出来ねえ…!だから臨也を殴りでもしたらっ俺…!」

「……シズちゃんのバーカ」

「っな…ん!」


あまりに自分の主張に夢中になりすぎて気付かなかった。臨也が目の前に居たことに。再び、近くに居たことに。臨也は背伸びをして、軽く俺に口付けた。いきなりの出来事に抵抗を忘れ、目を見開く。


「俺がそんなんで死ぬとでも言いたいの?」

「……え」

「シズちゃんと思い切り喧嘩してきたのに、その功績は無視?」


ああそうか。新羅の言う通りだった。俺は臨也を信用しきれていなかったらしい。俺が大人しくなったのを見て、臨也の表情も和らいだ。穏やかに微笑んだ臨也に思わず目を逸らす。


「シズちゃんはシズちゃんのままでいいからね。そうじゃないと俺、嫌いになるよ?」

「…臨也」

「うわっシズちゃん!な、泣かないでよっ」

「っお、れ…最低だ…っ」

「あーも〜、ぐずぐずじゃん。ほら、帰ろっか」


差し伸ばされた臨也の手に触れると、思った以上に暖かかった。


短時間逃走劇







セレーノのなちさまから相互記念で頂きました!
なちさまの変態的なうざやさんも大好きなんですが、かっこいざやさんがもっと見たいです…とお願いしてみたら、こんなに可愛いシズちゃんとイケメン臨也さんがお嫁に来てくれました(^^)
臨也さんたら本当イケてるメンズ…!パネェ包容力に私が惚れた…!
最後はお手々つないで仲良く帰る2人を想像して頭パーンしました。誰か私の脳みそを拾って下さい。
なちさん本当に有難うございました…!



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