俺は無神論者だから神様なんて信じちゃいない。
神様も仏様もキリスト様の教えも罰あたりに鼻で笑ってやるさ、いつもはね。
でも今だけは、今ばかりは、居るかも分からない神様に感謝したい。
ああ神様ありがとう!こんな奇跡をありがとう!


「可愛い、可愛いよシズちゃん!」







今までの経緯を説明すると、こうだ。
俺が外で野暮用を済ませて部屋に帰ってくると、玄関先に見慣れない靴が置いてあった。
波江はとっくに帰っている時間だし、そもそもこのサイズの大きさは女物じゃなくて男物だ。
そして俺の部屋を訪れるような男は、俺の知る限り1人しか居ない。
はやる気持ちを抑えてリビングの扉を開けると、金髪のバーテンダーがソファで背を丸めてくうくうと寝息を立てていた。

俺は少なからず驚いた。
驚いた理由は2つある。

ひとつめは、シズちゃんが俺の部屋にいたこと。
勝手に上がり込んでいることに対して驚いたんじゃない。
シズちゃんには随分前から部屋の合い鍵を渡していたから、彼が俺の不在中に部屋に上がり込むことは物理的に可能だ。
でもシズちゃんがその合い鍵を使ってくれたことはこの半年間1度だって無かったし、きっとこれからも使ってくれないだろうなんてちょっぴりネガティブ思考に陥っていた矢先にこの出来事。
そりゃ驚くさ!そりゃ嬉しいさ!シズちゃんラブ!俺はシズちゃんを愛してる!

まあ、それは置いといて。
ふたつめの理由は、シズちゃんの頭とお尻から、ふかふかとしたネコ耳と尻尾が生えていたことだった。





「で、説明してくれんだろーな」


やだなあシズちゃんそんな可愛い格好で俺の帰りを待ってくれてるなんて誘ってるの誘ってるんだね据え膳食わねば何とやらいただきます!
と飛びかかった俺を目を覚ましたシズちゃんが渾身の力をこめて殴り飛ばした後、自分に生えているネコ耳と尻尾に気付き苛立ちを隠そうともせず不機嫌マックスなご様子の彼に正座させられて尋問されている俺。
これが今現在最新の状態だ。


「説明って言われても、俺にも何が何やら…」
「俺がここに来た時はこんなことになってなかった。お前の仕業以外考えらんねーだろ」
「だから知らないってば。シズちゃんが自分で付けたものだとばかり思ってたよ」
「何のために俺がこんなもん付けなきゃなんねーんだよ」
「俺を喜ばせるためかなーなんて…」
「有り得ん、うぜえ」


まあ冷静に考えてみりゃシズちゃんがそんなサプライズを用意してくれる可能性はゼロに等しいと、今なら分かるけど。
でもシズちゃんにネコ耳が生えちゃった理由なんて本当に俺は知らないし。
なんでだろうなあ。
腕組みをしてうーん、と考えるが俺は考えることを5秒で放棄した。
いやいやいや、どうでもいいじゃんそんなこと。
大事なのは何故こうなったのかじゃなくて、今現在シズちゃんがとんでもなく可愛いことになっていて、こうなってしまったからには、するしかないでしょうにゃんにゃんを!ということだ。


「お前、いま考えてることダダ漏れだぞ」
「へ?あ、今声出てた?」
「出てねえけど、超にやにやしてんだよ気持ちわりい」


変なこと考えてんじゃねえよエロ魔人が、
なんて何となく可愛い捨て台詞を吐いて扉へと向かうシズちゃんの背中に声をかける。


「ちょっとシズちゃん、どこいくの?」
「帰んだよ。てめえと一緒にいると危険だ」
「そんな格好でどうやって帰るつもり?耳はともかくその尻尾はどう頑張っても隠せないんじゃない?」


痛いところを突かれて、う、と詰まってしまったシズちゃんに近づいて、にこりと微笑んだ。


「それにさ、こういうのってエッチしたら元通り!っていうパターン多いんだから」
「変な漫画の読み過ぎだ、馬鹿」
「ほんとほんと。そもそもネコ耳が生えてること自体異常なんだから、今更現実的に考えたって仕方ないでしょ」


それに体は正直かもしれないよ、
なんてエロ漫画の常套句を囁きながらシズちゃんのお尻から生えた尻尾に手を這わせる。


「っぅお!」
「ちょっとシズちゃん…もうちょっと色気のある声出せないの」
「いきなり触るからびっくりしたんだよ!離せっつの」
「え?シズちゃん気持ち良くないの?」
「はあ?」


撫でたり掴んだり好きなように尻尾を弄るが、シズちゃんはコイツ何やってんだみたいな顔をしたまま動かない。
おかしい。これはおかしい。
こういうときは、あんっそこ触っちゃだめえ感じちゃうからあっ、てな展開がセオリーなはずだ。
萌えない!こんなの萌えないよシズちゃん!何で君はそんなに無表情でじっとしていられるんだい!


「…シズちゃん、これ偽物なんじゃないの?」
「そうなら助かるけどな。でもいくら引っ張っても取れねえし痛えし」
「おかしいってば!本物なら絶対もっと喘いでくれるはずだもん!」
「意味分かんねえ」


おかしいなあ、こんなはずじゃないのに。
心底呆れているような表情を浮かべるシズちゃんの頭からピンと生えている耳に手を伸ばす。と、


「っあ!」
「え?」


途端にびくりと体を震わせ、甲高い声を上げるシズちゃんを驚いて見上げる。
シズちゃんは真っ赤になって慌てて口を押さえていたが、今更だ。もう遅い。可愛いにゃんこの弱点見破ったり。
にやり、と俺は口を歪めた。


「シズちゃん、尻尾は駄目でもこっちは感じるみたいだねえ?」
「ふあ、あっ、やめろっ…!」
「駄目だよ、焦らされた分たっぷり楽しませてもらわないと。ねえ?」
「誰がっ…!あっ、ああ…触んなっ…って!」


むにむにと両耳を揉み、たまに耳の穴に息をふぅっと吹きかけるとシズちゃんの体は面白いぐらいびくびくと揺れた。
下半身に違和感を感じて見下ろすと、シズちゃんの股間は傍目でも分かるくらいに張り詰めていた。


「耳さわられて気持ちいいんだ?可愛い猫ちゃんだねえ」
「あっ…ば、ばかにすんなっ…!」
「してないよ、馬鹿になんて。本当に可愛いなぁって、それだけ」


耳を弄る右手はそのままに、左手を伸ばしスラックス越しに股間をぐにぐにと揉んであげるとシズちゃんは弱々しく俺の肩に縋りついてきた。
何だか守ってあげたくなるようなその態度に俺の胸はキュンと高鳴る。


「あっあっあっ、や、駄目っ…」
「駄目じゃないでしょ?ほら、すごいよここ」
「やぁっ…ん、もっ、やめろってえ…」


先走りでパンツ越しにびちゃびちゃになってしまったスラックスを眺めながら、
これは全部終わったあと、幽から貰った服を汚しやがってと怒られるかもしれないなあ、なんて苦笑した。
そのときは、「俺はただシズちゃんを気持ちよくしてあげただけで、勝手に汚したのは君のほうでしょ」と反撃してやろうと心に決めながら、俺は愛撫を続けた。






「…やっぱ戻ってねえじゃねえか」


あのままリビングで1回やって、そのあとベッドに移動してもう1回やったあと、うつ伏せに寝ころび不貞腐れたように唇を尖らせるシズちゃんのお尻と頭には、未だにふわふわと揺れる耳と尻尾が健在だった。
ちょっと期待した俺が馬鹿だった、とそっぽを向くシズちゃんを慰めるように頭を優しく撫でると、彼は気持ちよさそうに目を細めた。ごろごろと喉を鳴らさんばかりのその表情に、まるで本当のネコみたいだと少し可笑しくなる。


「大丈夫だよ、シズちゃん」
「何がだよ」
「もしこのまま元に戻らなかったとしても、俺が一生君のこと飼ってあげるから」
「ふざけんな」


悪態をつきつつも、満更でもなさそうな顔をしているシズちゃんが可愛くて思わずにやけそうになる顔を、ちゃんと高級なキャットフードも買ってあげるからさ、なんて冗談を言って誤魔化すと、思いきり殴られた。




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