※気持ち悪いよ!





好きだよ
愛してるよ

そう俺が囁きかける度、シズちゃんは眉間に何本もの皺を刻んで顔をぐちゃぐちゃに歪めてこう吐き捨てる。
くそくらえ。

既に薬で体の自由は奪っている。
少量では当然というか何と言うか全く効き目がなかったので、通常の3倍以上は薬を盛った。
その結果、シズちゃんは今では指先1本でさえ自分の意思で動かせない。
そんなシズちゃんの腰のあたりに馬乗りになって愛用のナイフを構える俺。
自分の身が危ないことなど誰の目から見ても明らかなのに、臆することなく俺を睨みつけてくるシズちゃんは何て馬鹿なんだろう。
本当に、愛しくて困る。


「シズちゃん、好きだよ」
「黙れ」
「愛してるよ」
「死ね」


体はダラリと伸びきっていて、生気の欠片も感じられないのに、俺を射抜くその瞳だけは殺気に満ちあふれている。
背筋を言い知れぬ感覚がゾクゾクと駆け上がっていった。

衝動のままに、腕を振り下ろす。
シズちゃんの肩口からザクリという音を立てて俺のナイフが生えた。
顔が痛みに歪み、一瞬遅れてシズちゃんの口からまるで獣の咆哮のような叫び声が漏れた。
痛いんだ。痛いんだよね。ああ、可愛い俺のシズちゃん。君にこの痛みを与えているのは俺だ。俺なんだよ。

肩に刺さったままのナイフを引き抜くと、ぱっくりと開いた傷口から血が溢れ出した。
白いシーツを濡らしていく濃い朱色をうっとりと眺めながら、俺はまた腕を振り下ろした。
開いたシズちゃんの肩の傷口目がけて、ナイフを振り下ろす。寸分の狂いも無く同じ場所に。


「っぐ、あああああ!あぁっ、」


そのままナイフをぐるりと掻き回すと、ずたずたになっているだろう筋肉がぐちゃりと嫌な音を立てた。


「俺の可愛いシズちゃん、愛してるよ」
「…っ死、ね!」


目に涙を溜めながら睨みつけてくるシズちゃんは決して俺に屈しない。
こんな痛みを与えられても尚、俺に助けを乞うことなどしない。
そんなシズちゃんだからこそ、俺は誰よりも愛してあげられるんだ。
俺から本当に解放されたいのなら、プライドなんて捨て去って「助けて下さい」と懇願すればいい。
彼がそうした時点で俺は一切の興味を奪われ、目の前の愛しい彼はただの平凡な人間に成り下がる。
でも彼はそうしない。何があっても俺を恨み続ける。憎しみ続ける。

だから、この先一生シズちゃんは俺の愛しい愛しい特別な人だ。


「愛してる、シズちゃん」
「…殺してっ、やる…」


薄い唇に噛みつくようにキスをして、そこから吐き出される物騒な言葉ごと吸い取った。
俺が付けた肩の傷口を慈しむように手のひらで、ざらりと撫でる。

この傷が一生消えなければいいのに。
そう思った。









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