「忍足、顔色悪いよ。」

俺よりも少し離れたところで机に座った彼女が話しかけてきたのは、もうすでに日が傾きかけている橙色の教室でだった。数十分前までは騒がしかったこの教室も、今じゃ彼女と俺しかいない。

「なんや、まだおったん?」
「忍足こそ。」

どうやら彼女はもう帰るらしく、鞄に教科書をつめている。ちゅーか女の子が机に座ったらあかんやろ。まあ彼女らしいけど。
この日に本当に部活がなくてよかったと、思う。多分いまの俺は、ホラー映画に出てくる幽霊より真っ白な顔をしているだろう。暫く無言でおったら、「忍足?」と彼女が名前を呼んだ。どく、と心臓が鳴る。彼女と目があった。

「本当に大丈夫?帰ったほうがいいよ。」
「せやな。」

頭がくらくらする。今までにないくらい、今回の症状は酷い。全身が、欲している。それは目の前にいるのが彼女だからだろうか。
音を立てて席を立てば、携帯を弄ってた彼女がこちらを見る。目ェあった。どく、どく、心臓が煩ァしてかなわん。夕日に照らされた彼女に近づけば、心臓の音は全身に伝わった。あかん欲しい。全部、欲しい。

「うわ、ちょっと幽霊みたいに白いよ。貧血じゃ…。」
「せやねん。だから血が、めっちゃ欲しい。」

え、と混乱する彼女を無視して机に押し倒した。多分腰痛いやろなあ。がしゃんと彼女の携帯が落ちる音がしたけど、聞かなかったことにする。彼女は忍足どいて、とか今携帯落ちた!?とか俺の下で騒いどるけど、随分余裕やなあ。俺の下でとか、なんかやらしいな。あ、今のは気にせんといて。
ぷつ、と一つずつ彼女のボタンを外していけば先ほどまでぴーぴー騒いでいた彼女の動きがぴたりと止まった。

「や、なに、なにしてんの。」

再び騒ぎだした彼女は、顔が真っ赤だった。俺の手首を掴む彼女の手を払ってシャツをはだけさせる。寒さからか、それか恐怖か、彼女は震えていた。あ、欲しい。

「忍足、変だよ。顔色悪いし、ねえ。」

さっきから俺の肩を押してどうにか逃げ出そうとする彼女の耳に唇を掠めさせれば、ふわりと甘い匂いが鼻孔を擽った。どく、どく、なんこれ。欲しい。そのまま彼女を抱き締めれば、抱き締めた体がめっちゃ柔らこうてまた心臓が高鳴った。あかん、今すぐに食べたい。
耳から首筋に降りて小さく吸い付けば、彼女が言葉にならない声を発した。彼女が動くたびに甘い匂いがして、余計頭がくらくらする。我慢、できひん。

「堪忍な、」

俺の牙が彼女の皮膚を突き破るのがわかった。じんわりと血の味が口内に広がって背筋に甘い痺れが走る。一気に頭が満たされる。いつの間にか背中に回った彼女の腕が、ぎゅっとシャツを掴む。もっと密着したくて体を押し付けた。

「おし、た、」

紅潮した頬に、口から漏れる熱い吐息。首筋から顔を上げると、潤んだ瞳と目があった。そんな、目で、見んとって。途切れ途切れでなんとか言葉を発して傷口を舐めた。いつもなら、これが彼女じゃなかったら、直ぐ様吸血の記憶を消すのに。彼女だから、何故か記憶を消せなかった。
俺が吸血鬼でも、彼女ならって、ちょっと思ってしもて。

「ごめんな。」

そう言って彼女の体を抱き締めたから、彼女がどんな顔でどんなことを思っているのかわからなかった。

20131229


×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -