「白澤さんのつかいで来ました」

ひゅるり、と背筋を通り抜ける冷たい風に身震いする。この地に来るのは二ヵ月ぶりくらいだろうか。この雰囲気が落ち着く。

「…なまえさんですか」

この声は最近聞いた様な気がする。
私は鬼でありながらも漢方薬を勉強したくて桃源郷の白澤さんのところで働いていた。桃源郷は地獄と違い静かな場所だがやはり私は地獄が好きだ。ちなみに白澤さんは苦手なタイプである。

「先日頼まれた薬です」
「ありがとうございます」

このやり取りは何度目だろうか。今頃女の子と遊んでいるであろう白澤さんに心の中で悪態をつきつつ鬼灯さんに薬を渡す。私はぱしりじゃねぇってんだ。帰ったら白澤さんを一発殴りたい。

「毎回すみません」
「いえいえ、お気になさらず」

地獄へ来るのは好きだから苦ではないのだけど白澤さんのぱしりにされてると思うとなんだか不愉快な気分になる。白澤さんの事は嫌いじゃないです嫌なだけ。でも漢方薬についてだったら尊敬する。

「なまえさんが来てくれて嬉しいです」
「…ああ、白澤さんとは仲がよろしくないんですよね」
「私とあいつが仲睦ましかったら気持ち悪いでしょう」

確かに、とくすくす笑う。私が来てくれて嬉しい、という言葉にどきりとしたけど、変な期待はしない方がいいだろう。後で落ち込むのは自分である。冬の冷たい風がまたひゅるりと通り抜けた。

「なまえさんに会えるのが嬉しいんです」
「私も鬼灯さんと会えるの嬉しいですよ」
「意外と大胆ですね」

何が、という前に手をとられた。ひゅるひゅるり、背筋が冷たい。

「白澤さんのところに行かせるのは気に食わない」





途中放棄


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