長いようで短い授業が終わり、帰りの準備をしていると友人が放課後遊ぼうと言ってきた。せっかくの金曜、休みたいし何よりクロが心配だ。それに寮に帰らないとご飯が食べれないため丁重にお断りした。

「んー、じゃあまた今度休みの日にね!」

ばいばいと笑顔で言ってきた友人に私も笑顔でばいばいと返し教室を出た。
今日の晩ご飯何かなとか何か面白いテレビあったかなとかそんな事を考えていたら意外と寮に着くのは早いもので。

「ナマエちゃんおかえり」
「ただいま、おばさん」

後でご飯とりにきてね、とおばさんは言い皿洗いを始めた。もう19時だし、そろそろお腹空いた。

「ただいま」

自分の部屋に戻って電気をつけると私のベッドに誰か座っていた。思わず叫びそうになったが慌てて口を両手で塞ぐ。ここで叫んだら一大事だ。いや、叫んでも私のベッドに誰か座っているという事実は変わらないのだが。

「おかえり」

どうやら幽霊じゃないらしい。長いくせ毛の髪をポニーテールにしている。それでも髪はお尻の上くらいまである。どれだけ長いんだ。

「あ、あの…?」
「なに」

もしかして新しく寮に入った人だろうか。それで挨拶に…いや、それだったら何で電気もつけずに私のベッドに座っていたんだろう。しかも勝手に部屋に上がって…なんか可笑しい。

「ええと…新しく寮に入った人…?」
「違う。猫だ」
「は…?」

眩暈がした。ね、猫…?この人大丈夫か。最近暑くなってきたから脳みそが溶けたのかもしれない。そういえば猫で思い出した。クロはどこだろう。キャットフードと水は綺麗になくなっていた。よかった、食べてくれたのか。

「俺、あんまりキャットフード好きじゃない」
「え?」
「豆腐は凄く美味しかった」
「……え、あの、」
「なに」

いや、なにって言われても。それじゃまるで…

「クロみたい……」
「クロじゃない。久々知兵助。でもお前、朝は俺のことクロって呼んでた」

どきりとした。なにこれ、嘘でしょ。久々知兵助って人がクロだと言うの?これじゃまるで、
(今日朝みた夢…)

「本当に、」
「本当だよ」
「…でも」
「゛せめて人間だったら良かったのに゛」

はっとして久々知兵助の顔を見た。深い青色の目。この目、知ってる。いま久々知兵助が言った言葉も私がクロを拾ったときに言った言葉だ。

「じゃあ、」
「猫にもなれる」
「えっ」
「目を瞑って。俺が三つ数えたら目をあけて」

言われるままにそうした。久々知兵助がひとつ、ふたつ、と数えていき、最後にみっつと言ったのでゆっくり目をあけるとそこに久々知兵助はいなかった。

「え」
「にゃ」

下を見れば此方を見上げるクロがいた。嘘でしょ嘘でしょ。そんな、だって、こんな事。

「ナマエちゃん?入るわよ?」
「えっあっはい!」

晩ご飯のお盆を持っておばさんが入ってきたけど、きっと私が晩ご飯を取りに行くのが遅かったからで。でも私の心臓はばくばくと物凄い運動をしている。

「遅かったから来ちゃったけど、大丈夫?」
「すみません大丈夫です。ありがとうございます」

クロに目を向けるとお盆の上の豆腐に目を輝かせていた。


20110802

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