「うん…朝…朝!?」
はっとして頭が覚醒する。焦って時計を見ると5時36分。まだ余裕じゃないか…て、あれ?これさっきも…。
「…夢か」
クロが人間になるはずがないと、先程の夢を思い出す。今日は祝日でもないし学校だってある。頭をがしがしと荒く撫でベッドから降りた。もちろんクロは猫だったしその長いくせ毛は変わらない。まだ警戒してるのか部屋の隅にいるけれども、私は構わず話し掛けた。
「今日クロが人間になる夢を見たよ。可笑しいよね」
くすりと笑ってクロを見ると、心なしかきょとんとした顔に見える。可愛いな、と思って頭を撫でようと手を伸ばしたらクロがびくりと身を引いたのでやめた。まだだ、ゆっくりでいい。この距離が縮むのは。
「ごめんね」
朝ご飯食べてくる、と行って部屋を出た。まだ6時前だから辺りは凄く静かだ。
「よっナマエ!おはよう!」
「あ、はっちゃん。おはよう。朝練?」
おう、と言ってはっちゃんは行ってくる、と走ってった。行ってらっしゃいと返せば笑顔を向けられる。はっちゃんは同じ寮で中学からの付き合いだ。確かサッカー部。何故かいつも獣臭い。
「おばさんおはようございます」
「あらナマエちゃん、今日は早いわね。おはよう」
あ、そういえば、とおばさんはにこにこしながら何か渡してきた。そしてこれからは自分の部屋でご飯を食べなさいと言って朝ご飯を渡してきた。え、なにこれ。キャットフード?クロ食べてくれるかな…あ。
「おばさん、豆腐ありますか?」
「あるよ。はいどうぞ。ナマエちゃん豆腐好きだった?」
「いや、その…まぁ健康にいいので」
まさかクロにあげるなんて、口が裂けても言えない。それから私は二つのご飯を持って部屋に戻った。ことりと自分のご飯を机に置き、右手に豆腐、左手にキャットフードを持ちクロに近づいた。
「どっち食べるかな…」
まあどちらを食べようが残った片方はクロの昼食になる。クロの前に二つを置き様子を見るために離れるとクロは真っ先に豆腐の方へ駆けた。嘘だろ…まさか豆腐しか食べないとか、ないよね…?
その後私も朝食を済ませ学校へ行く準備をした。昼食用に水とキャットフードを壁側に置き、クロにお昼ちゃんと食べてねと言い家を出た。7時ちょっと過ぎ。まだまだ余裕だ。
「おばさん、行ってきます」
「はぁい、行ってらっしゃい」
まだ一日は始まったばかりだ。
20110729
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