「ナマエー携帯鳴ってるよー」

友人の言葉にはっとした。そうとう集中していたのか、携帯の音に気が付かないなんて。ペンを置き携帯を開けば忍足侑士という文字が表示された。が、どうやらメールらしい。

“いま部活か?”

初めてのメールに思わずにやける。友人に名前を呼ばれたので慌てて口元を押さえた。

「誰ー?」
「え、友達!」

ふうん、と一つ頷き、友人は作業に戻った。隣で鉛筆の走る音を聞きつつ、メールの返事を打つ。どうしよう指が震える。

“そうだよ”

相変わらず素っ気ない返事だと思う。緊張して変な絵文字や顔文字を使うよりかはマシだと思いそのまま送信した。送った後にああまだ書きたいことがいくつもあったと後悔するのはいつもの事だ。私の悪いところのひとつである。侑士も部活?とか聞いたらもう少しメールも続いたかもしれない。
もうすぐ部活の時間も終わるし絵を描く集中力も切れたので片付けを始めていると、メールの返信がきた。開くと、文字は一つもなく画像だけがあった。おかっぱの男の子が、頬をぐにっと引き伸ばされて変な顔をしている。可愛くて思わず笑ってしまった(おそらく侑士が引っ張った)。

“ほっぺたよく伸びるね!誰?”

そう送って鞄を持ち部室を出る。後ろから友人のばいばーいという声がかかったので手を振り、下駄箱へと足を進めた。
靴を履いて門を出ると再びメールがきた。頬が緩むのが分かる。

“向日岳人や。よくダブルス組むんやで。”

顔は可愛いのにかっこいい名前だなと思いつつ返信ボタンを押す。が、すぐにメールがきた。侑士からだ。驚いてそのメールを開くとまた画像だけのメールだった。それを開くと私と同じく驚いた顔の侑士が…え?待ってこれ侑士からきたメールだよね?なんで侑士の写真が添付してあるの?
頭の中が混乱したが指だけは勝手に動いてその写真を保存していた。だって侑士の驚いた顔なんて貴重だよ。何はともあれ美味しい画像を頂いたとにやにやしていたら突然携帯が鳴った。危ない落とすとこだった。

「えっ。」

ディスプレイに表示された文字は忍足侑士で我が目を疑った。

「も、もしもし?」
「ナマエいまのメール消せや特に画像な。絶対消さなあかんよ?」
「えっあっ忍足君えっと…。」
「はよ消せ。」
「消すから落ち着いてください。」

消さないけどね!私の家宝だからね!心の中でそう叫び、私は口を開いた。というかいま名前呼ばれなかったか私…!

「あの写真自撮り?」
「そんなわけないやろ。岳人が撮ってきよったんや。勝手にメールしよるし。」

堪忍な、と侑士は言うが私にとっては美味しい写真だったので寧ろ向日岳人君に感謝だ。可愛かったなあ向日君。

「向日君可愛かったね」
「それ本人に言ったらあかんで」

くすくす笑う声が聞こえて耳が熱くなる。小さくなんだよ侑士!くそくそっ!と聞こえて私も笑った。やっぱり向日君可愛い。三次元には可愛い男の子なんていないと思っ…げっほげほ。

「あれ、今部活中?」
「いや、もう終わって片付けや。ナマエは?」
「い、いま帰り…」

ぎゃああ名前で呼ばれたら私呼吸できない!この前言った言葉をすっかり忘れてる侑士に、名字で呼んでほしいなんて二度も言えない。でも電話では普通に喋れてるから、ちょっとは侑士に耐性がついたのかも、なんて考えていたらバスが来た。

「あ、ごめんバスが来た。」
「ああ、ほなまたな。」

気い付けて帰り、と言い電話が切れた。またな、という言葉ににやける。バスに乗って窓を見ると、頬が赤くて緩んでいる自分がいた。電話では普通に話せるとか思ってたけど、やっぱりまだまだみたいだ。

20120703
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