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かち、とボールペンをノックして目の前の紙と向き合う。けどすぐにまたボールペンをノックして視線を外す。暫くそれを繰り返してしまいにはくるくるとボールペンを回した。指からボールペンが逃げ出してかたりと紙の上に落ちる。

「珍しく勉強してんねんな。」

そばにある扉から部屋に入ってきた彼は、肩にタオルをかけている。そのタオルにぽたりと水滴が落ちた。冬でも相変わらずドライヤーを使わないらしい。

「勉強じゃない。進路調査。」

椅子をひいて向かいに座る彼を見れば、さして興味のなさそうな顔をしていた。ここに来るときに冷蔵庫をあさったのか、手には冷えたペットボトルがある。湯冷めしても私知らない。

「忍足は将来の夢、あるの。」

寒さに体を震わせた。湯冷めしたのは私のほうだったようだ。私の部屋は北にあった。ペットボトルに口をつける彼はどこかぼやけている。

「医者、やな。」
「へえ、それっぽい。似合うんじゃない。」
「別になりたいわけやないけど、親が医者やねん。せやから俺も、多分。」

彼は本当に同い年なのかと、時々思う。彼が突然こちらにやってきたときから自分の世界を持った奴だと思った。自分の世界には決して人を寄せ付けず、また彼も他人の世界に入ることを好まなかった。しかし馴染む力もあって、この世界に来てすぐ、この世界の人と同じように生活をしている。あの日から、もう一年になるのではないだろうか。

「自分は、何になりたいんや。」

ゆるりと目の前にある進路調査書を指さして、彼はこちらに目を向けた。かと思えば目をこすり、あくびを一つ。

「眠いの。」

そう問えば、彼はまた目をこすりながら質問に答えや、と言った。ううん、と一つ唸る。

「紙ひこうき、かな。」

かちかち、ボールペンをノックする指はせわしなく動いている。彼は恐らくこの無意味な行動が嫌いだ。彼の視線が私の手元にきたのでノックするのをやめた。

「それ、理由聞いてええの。」
「紙ひこうき、それともボールペンのノックかな。」
「紙ひこうきのほうや。」

ボールペンを置いて忍足と視線を合わせた。眠そう。

「紙ひこうきって、どの世界とも繋がってる気がするの。」
「それで。」
「紙ひこうきになって、忍足に会いに行くよ。」

彼は一瞬方眉を上げてくすりと笑った。そして机の上に転がっているボールペンをとり、紙を自分のほうに引き寄せる。

「俺、こっちに来る直前めっちゃ眠かったんや。」

さらさらとボールペンを動かし私の進路調査書に何やら書き出す。へえ、とてきとうに返事をすれば彼はボールペンを置いて紙をこちらに向けた。第一希望のところには、私の行きたい学校の名前が書いてある。

「自分の行きたいとこに行ったらええ。」

彼は何故私がこの学校に行きたいって知っていたのだろうか。彼はこの世界のことをよく知らないはずなのに。紙から視線を上げ彼を見るとやっぱりぼやけている。

「私ね紙ひこうきになってね、会いに行くよ。」
「さよか。」
「忍足が夢を叶えるころに、必ず会いに行くよ。」
「おん、待っとる。」

するりと頭を撫でられたと思ったらそれはふわりと消えた。残ったのは飲みかけのペットボトルと、彼の手の温もりだけ。私はボールペンを手にとり無意味な行動を始めた。

20121111.
続き書きたいなあ。逆トリみたいな感じ。
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